大マスコミが報じない経団連会長「原発はもう無理」発言の衝撃度

 

原子力ムラが壊れ始めた

中西氏は、経団連会長であるばかりでなく、日本の3大原発メーカーの1つである日立製作所の会長である。しかも、中西氏の前に日立の会長を務めていた川村隆氏は、今や東京電力ホールディングスの会長であって、柏崎刈羽原発の再稼働を前提としての東電の経営再建に必死に取り組んでいる最中である。さらに、中西氏の前の経団連会長だった榊原定征氏は、ベッタベタの安倍首相追随者で、今年1月2日の安倍首相の初ゴルフのお相手も務めているが、彼は「原子力は最も重要な基幹エネルギー」などと言って原発推進の旗を振っていた。

それを考えると中西発言は大変なことで、日立会長の前任者と経団連会長の前任者の2人を斬って捨て、さらにその後ろで何が何でも原発再稼働と原発輸出を国策として推進しようと糸を引いてきた安倍晋三首相・今井尚哉秘書官の原子力推進コンビに対して爆弾を投げつけるような行為だった。

この「経団連会長の反乱」の直接のきっかけは、日立が中心となって進めてきた英国への原発輸出計画が失敗し、同社は今年3月期連結決算で最大3,000億円の損失を計上せざるを得なくなっていることである。これは、英西部のアングルシー島に原発2基を新設しようというもので、日立が現地に子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を設立して着工準備を進めてきた。しかし、世界的な原発安全基準の厳格化や資材の高騰によって事業規模が当初の2兆円という見通しから大きく膨らみ、新たに日立、英政府と英企業、東電など日本企業の3者からそれぞれ3,000億円、計1兆円程度の追加出資を集めなければならなくなった。ところが、日立が当てにしていた東電が難色を示したのをはじめ必要な資金が集まらず、このままでは傷が広がるばかりだとして、すでに昨年12月の段階で中西氏はもう限界だと計画断念の意向を英政府に伝達していた。

その経緯からして、日立の会長としての中西氏が原発輸出の未来について絶望的になるのは分からないでもないが、そのことと、“財界総理”とも呼ばれる経団連会長としての彼が、国内の原発に関してまで事実上ノーを宣言するということとの間には大きな飛躍がある。その事情について、上述5日付「東京新聞」は、「日立には、このままでは経産省の政策に沿って海外の原発会社を買収した結果、大損失を被った東芝の二の舞になりかねないとの危機感もあるとみられる」と解説したが、たぶんその通りで、海外でも国外でも、政府の言うなりに無理に原発を進めれば企業として命取りになりかねないと判断したのだろう。

東芝の破綻は、経産省で産業政策・エネルギー政策畑を歩み、資源エネルギー庁次長を最後に安倍総理秘書官に転じた今井氏らの「原子力ルネッサンス」というお囃子に乗って、06年、すでに経営が行き詰まっていた米ウェスティンハウス社を買収するという無謀に打って出たことが発端である。東芝はその巨額投資の失敗を株主や世間に対して隠すために史上空前の粉飾決算を繰り返さざるを得なくなり、それが15年に露呈して事実上の細切れ解体状態に陥って、今は何の会社であるかも分からない有様である。中西氏が、今や下り坂の安倍=今井に義理立てして会社を潰したのでは元も子もないと考えたとして不思議はない。

こうして、正月早々、原子力ムラはその中枢のところで大きなひび割れを露呈し、これをきっかけに崩壊の過程に入って行くだろう。福島第一原発事故から8年にして、ようやくこの国は脱原発へと舵を切ることになるのではないか。

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