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軍事アナリストが指摘。底の浅さが露呈した「中国の国防費」報道

中国の全国人民代表大会で明らかになった軍事費の大幅増額に関して、日本のマスコミが報じる内容が、「木を見て森を見ない」ものばかりだと厳しく指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。本来マスコミが読者・視聴者に提供すべきなのは、一歩引いた視点からの見方をであるとし、自身の「森全体」を見た分析を披露しています。

中国の国防費、「森の全体」を見ると

中国では日本の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が始まり、国内総生産(GDP)の成長率目標が昨年の6.5%前後から「6~6.5%」に引き下げられる一方、今年も軍事費は大幅に増額され、そこに焦点を当てた報道が目立つ結果となりました。

「全人代では2019年の国防予算案が示され、前年比7.5%増の1兆1898億7600万元(約19兆8千億円)となった。伸び率は前年比0.6ポイント減で2年ぶりのマイナスだったが、GDPの成長率目標を上回る水準を保ち、軍強化を推し進める習指導部の姿勢を鮮明にした」(3月6日付朝日新聞)

「5日開幕の中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で公表された今年の国防予算(軍事予算)が、前年比7.5%増の1兆1898億元(約19兆8500億円)と過去最高の20兆円に迫った。米軍に対抗する新型兵器の増強を図っていることが要因とみられ、米トランプ政権の警戒感は強い」(3月6日付読売新聞)

特にマスコミが飛びつくのが最新鋭兵器のニュースです。

「例えば、昨年7月に2隻が進水した055型大型ミサイル駆逐艦は、アジア最大級の排水量1万3千トン前後を誇る。ミサイル迎撃能力も備え、レーダー性能は米イージス艦をしのぐとの指摘もある。同時に建造が進む国産空母とあわせ、遠洋の作戦能力向上につながることは確実だ」(3月6日付朝日新聞)

「中国系香港紙・大公報は1日、中国軍が今年、移動式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF(東風)41」と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「JL(巨浪)3」、最新鋭ステルス戦略爆撃機「H(轟)20」を公開するとの見通しを示した。『三位一体の戦略核武力』と称され、米国への核抑止力強化を狙った最新兵器だ」(3月6日付読売新聞)

確かに、兵器に象徴される軍事力の増強は、とりわけ国境を接する日本にとっては他人ごとではありません。次のように、一歩踏み込んだ記事もあります。

「軍事関連支出で米国はまだ中国を圧倒しているが、米軍は中東など地球規模での展開を余儀なくされている。『西太平洋正面に投入できる戦力は米中で並びつつあり、中国優位となるのも時間の問題だ』(元米軍幹部)との見方も広がる」(3月6日付読売新聞)

しかし、報道としてはそれだけでは十分ではありません。

中国の近代兵器は、それを運用するシステムにおいて米国に大きく水をあけられており、中国の国防費の4分の1以上もの米国の国防研究開発予算から生み出されるテクノロジーは、中国の追随を許さないレベルにあります。それを挽回しようとすれば、中国は他の兵器の開発を断念しなければならないというジレンマを抱えているのです。

さらに、中国の軍事的増強に神経を尖らせているのは米国だけではないという問題もあります。北大西洋条約機構(NATO)諸国はもとより、ロシア、インド、そして日本は代表的な国々でしょう。中国から見れば、米国が中東方面に戦力をさかれているのと同様に、そうした国々にも備えなければならないのです。

マスコミの報道に求められるのは、国防費の増額といった「一本の樹木」だけに焦点を当てるのではなく、数日たってからでも構いませんが、「森全体」を見渡した見方を読者・視聴者に提供することではないかと思います。(小川和久)

image by: plavevski, shutterstock.som

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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