大人だって虐待で苦しんでいる。当事者が語る子供時代のトラウマ

shutterstock_image
 

虐待サバイバーの現実を本人の実体験から学べるメルマガ『虐待サバイバーの学び舎・羽馬千恵の「虐待のリアルとよのなかへの提言」』の著者で、本人も子供時代に虐待を経験し大人になった虐待サバイバー(当事者)である羽馬千恵(はばちえ)さん。自身の子ども時代の虐待体験のリアルを追体験して語りながら、社会に欠けている大人の支援について発信されている羽馬さんに、まぐまぐ編集部が熱い思いをうかがいました。

虐待に苦しめられているのは、小さな子供だけじゃない

ーーまず、羽馬さんがどのような方なのか、ということを読者の方が分かるようにできればと思っております。羽馬さんのこれまでや、現在されているご活動について教えてください。

わたしは虐待被害の当事者である虐待サバイバー」です。仕事は会社員をしていますが、虐待被害に遭った大人たちの当事者の会を作り、虐待被害の当事者として、社会に欠けている支援や虐待被害の当事者の声を啓発する活動をライフワークに活動しています。

私は昭和58年生まれですが、私が子ども時代は児童虐待防止法もなく、児童相談所も学校も、どこも子どもの虐待にほとんど介入していない時代でした。児童虐待防止法が成立したのは2000年ですから、私は当時17歳。つい最近までこの国は法律すらなかったのです。近年、虐待は増加していると言われていますが、昔から虐待は多かった。しかし、虐待という言葉の認識も社会になければ、児童相談所も今のように機能していない時代。虐待があっても子どもの支援のない時代だったのです。

そんな時代を生き抜いた虐待サバイバーの大人たちが社会にごまんといるのに、児童虐待の支援には当事者の声がほとんど反映されていません。虐待のリアルを知っているのは当事者だし、どんな理解が欠けているのか、こんな支援がしてほしかった!など、虐待防止に何が必要か?を一番知っているのは、虐待を生き抜いてきた大人の虐待サバイバーたちです。その声を社会に届けたいと思い活動をしています。

また、虐待は子どもだけの問題と思われがちですが、実は大人にとってもとても深刻な問題です。どういうことかというと、子ども時代に虐待に遭った経験のある大人は、虐待の後遺症がかなり重篤だからです。つい最近、厚生労働省が虐待など長期にわたるトラウマを「複雑性PTSD」という病気として認定しました。

虐待の後遺症は成人後も長く続くことが多いのですが、精神科医や精神科スタッフでさえ、「虐待の後遺症は子どもだけに起きるもの」というまちがった認識をしている人が多いように思います。このため、虐待を生き延びた大人の虐待サバイバーが精神科へ通院しても、後遺症で病気であるという理解がなされず、性格・人格の問題と誤解されたり無理解から支援者に暴言を吐かれたりする二次被害」が起きています。私自身も児童虐待が専門の児童精神科医から無理解で二次被害に遭い、トラウマ(PTSD)に苦しみました。

私が代表する当事者の会でも、精神科医やカウンセラーなど支援者から大人の虐待被害者の症状にあまりに無理解で二次被害が多く起きているという声が出てきています。本来、理解され治療されるべき支援者から再び被害に遭うということは強烈な体験です。子ども時代に虐待され、大人になっても精神科で虐待(二次被害)されるのです。この問題が深刻だと思い、大人の虐待サバイバーの理解と支援の啓発も行っています。

児童虐待が専門の精神科医や大学の研究者も、「虐待を受けた子ども」のケアをどうするか、という講演会や学会発表を行っている様子は見聞きしますが、虐待の後遺症に苦しむ大人のトラウマのケアに取り組む専門家が日本で非常に少なく、大人の虐待被害者が精神科へ通っても適切な治療を受けられることが少ないのが日本の精神科医療の実態だと思います。児童虐待は大人になっても後遺症に苦しむ人が多く、精神科医療現場では、その人の生きてきた背景まで見ないと本当の原因にアプローチすることができないのです。当事者の会は現在180名ほど全国から集まって情報交換をしていますが、もっと多くの当事者を集め、将来的には、大人の虐待サバイバーの治療法の確立の要望書を精神科の学会に出したいと思っています。

その後の人生に暗い影を落とし続ける「虐待のトラウマ」

ーー羽馬さんが有料メルマガの創刊を決めた経緯を教えてください。

虐待サバイバーとしての私のライフワークも、虐待の当事者の会(大人の未来(全国虐待被害当事者の会))の活動も、「社会への啓発」です。当事者からしか見えない視点で子どもも大人も苦しめている虐待問題に意見を発信していきたかったからです。当事者や虐待に関わる支援者だけでなく、虐待に興味のなかった一般の方にも、ぜひ、虐待の本当の実態やなぜ虐待が起きるのか?を知ってもらいたかったからです。

それと、子どもだけでなく、大人になっても苦しんでいる虐待サバイバーがたくさん世の中にいることも知ってもらいたかった。誰にも理解されずに苦しんでいる虐待を生き延びた大人の虐待サバイバーはごまんといます。みんな生きづらさを抱えていたり、病気になってしまっていたり、それで貧困に陥ってしまっていたり、大人になり壮絶な人生になってしまっている人があまりに多い!子どもだけの問題ではなく、大人になっても苦しんでいる事実は、当事者しか知りません。当事者の声をもっとマスコミも社会も聞いてほしい!

批判や禁止・厳罰化でカンタンに解決するわけじゃない

ーー読者がこのメルマガを読むことで何を得られるのでしょうか? また、どんな学び・気付きがあると思われますか?

虐待の事件がニュースで報道される度に、虐待した親批判だけで終わっていて虐待が起きる背景が全く報じられない。だから、多くの人が関心を寄せていても、どうして虐待が起きるのか?という背景が知らされないわけですから、国民みんなで議論にならない。マスコミは結論を報道する必要はないのです。虐待が起きた背景を調べて、「国民の皆さん、どう思いますか?」という問題提起でいいのです。今のマスコミは問題提起すらしない。その情報をもとに、みんなで次に虐待が起こらない社会にするためには、どんな支援が必要で、社会のどこに虐待が生み出される間違いがあるのか?を議論しないといけないのです。その議論なくして、次へは進めません。

いつも親批判だけの単純化された報道に腹が立っています。虐待問題も、親も、実は非常に「複雑」なのです。複雑だから、警察が介入すればいいとか、虐待する親を厳罰化すればいいとか、子どもの体罰を法律で禁止すればいいとか、単純な解決策しか出てきていない今の社会の欠点が見えてきます。必要な対策はもっとたくさんあるのです。何が必要かが、当事者の物語を読むことで、見えてきます。もちろん、当事者だけでなく読者の方にも、一緒になって考えてもらいたい。

今も昔も「支援がなかった」人々のための場所

ーー羽馬さんは「大人の未来(全国虐待被害当事者の会)」を立ち上げ、活動されていますが、ここはどんな人がどんなことをする会なのでしょうか。また、立ち上げに至った経緯や想い、会に参加されている方々に共通することなどもあればお聞かせください

会に参加している方の共通点は、
子ども時代に支援がなかったこと(児童相談所すら介入してない人が大半です)
②大人になり、みんな重篤な後遺症に苦しみ、今も苦しんでいること 
③子どもがいる虐待サバイバーの大人の方であれば、子育てに躓き、虐待を連鎖させないようみんな必死で子育てしているということ、
④精神科医やカウンセラーから、大人の虐待サバイバーの後遺症に対しあまりに無理解でひどい二次被害に遭い、さらに心に傷を負ってしまっていてどこにも支援がないこと
です。

議論と理解のために、自身と母親とのLINEを公開

ーー羽馬さんはメルマガの中で、虐待加害者でもあったお母さまとのLINEを公開されています。これにはどのような意義があるのでしょうか。

私は母と冷静に会話ができないくらい虐待した母をずっと憎んできました。だけど、母も子ども時代に虐待を受けた被害者で、私の場合は虐待の連鎖が起きていた。母も被害者であり、不憫だと思うようになってから、母を赦せるように変化してきました。このメルマガを書く中で、母と対話し、私自身ももっと回復したかったし、母も回復してほしかったのです。

虐待した加害者の母は当時、どんな状況だったのか、どんな心境だったのかを知ることは、虐待という問題解決のために、重要なヒントが隠されていると思いました。被害者の側からだけでは見えないものが沢山あります。虐待がなぜ起きたのか?どうしたら防げたのか?をより知るには、そして、今後の対策に活かすには、被害者と加害者の対話がいると思ったからです。

ただし、私の場合は母の虐待被害が連鎖したのであって、すべての虐待被害者が子どもを持ったときに虐待を連鎖させるわけでは決してありません。今のマスコミの単純化された報道の怖いところはここです。「虐待は連鎖する」ではなく、貧困やDVなど負の環境がそろったときに「連鎖する場合がある」だけで、必ずしも連鎖しないし、連鎖させないように頑張っている親を追い詰めるような単純化した報道はしてほしくないのです。虐待された人は虐待するというような「偏見」もすでにありますが、助長させたくないし、訂正していきたい。だから、私と私の母のLINEの会話を読んでいただければ、如何に複雑な問題であり、もっと当事者の声を聞いて議論が必要かが分かると思います。

虐待が終わってからが、本当の地獄だった

ーーこのインタビューを読まれている皆さんに、羽馬さんから「これだけは是非知っておいてほしい」ということはありますでしょうか。

虐待の当事者である虐待サバイバーとしてはっきり言います。「私は、虐待されていた子ども時代より、虐待から逃れられた大人時代の方がはるかに地獄でした!」。これを是非、知ってほしい!子どもを虐待から救えば一件落着といった甘いものじゃありません。虐待から逃れられてから本当の試練が始まります。虐待の後遺症はそれほどひどいのです。人生を狂わせます。だからこそ、大人の支援がいるのです。

子どもたちもいずれは大人になります。大人の支援というのは、今の子どもたちの未来の支援でもあるのです。大人の社会が不幸で、地獄で、子どもたちの未来は幸せなものになるでしょうか?大人の未来を考えることは、大人の支援というものは、今の大人たちのためにも、次世代の子どもたちのためにもどちらにも必要なものなのです。

「子供」と「大人」2つのケアが揃えば虐待はなくせる

ーー虐待が大きな問題として社会的に認知されているにも関わらず、悲惨なニュースが連日報道されています。どのような社会的ケア、個人の学びや心掛けが虐待防止、被害者救済に有効だと感じられますか。

虐待防止の活動は主に2つあります。1つは、子どもの虐待の防止活動。もうひとつは、虐待された子どもや大人のトラウマ・ケアです。後者がないのです。被害者救済には、後者が絶対にいります。トラウマをケアすることは、次世代への連鎖も防げます。虐待サバイバーの大人の支援は、子どもたちの虐待の防止にもつながるのです。それほど大事なものが、社会にあまりに欠けている。

虐待の後遺症のトラウマ治療をしている精神科医や専門家がわずかにいますが、その手法の均てん化を全国の精神科に推進してもらいたい。
あと、毒親と呼び、親批判だけする社会に問題が大きい。虐待が起きる背景を知り、背景への支援なくしては虐待は社会からなくなりません。


ーーと、大人になって生きづらさや無理解と戦っている、孤独な虐待サバイバーの方々をケアし、同時に周囲の無理解や偏見をなくし社会を変えていきたいという、羽馬さんの熱い思いを語っていただきました。羽馬さんのメルマガは初月無料ですので、お気軽にご登録ください。

メルマガ登録のページはこちらから→『虐待サバイバーの学び舎・羽馬千恵の「虐待のリアルとよのなかへの提言」

このインタビューは、まぐまぐ!の著者インタビューページ「まぐスペ」でもお読みいただけます。

image by: antalogiya, shutterstock.com

羽馬千恵この著者の記事一覧

大人になった虐待サバイバー(当事者)羽馬千恵(はばちえ)が子ども時代の虐待体験のリアルを追体験して語り、社会に欠けている大人の支援について、発信していきます。児童や精神科、虐待問題に関わるすべての方に是非、当事者からみた「虐待の世界」をリアルに知ってもらいたいと思います。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 虐待サバイバーの学び舎・羽馬千恵の「虐待のリアルとよのなかへの提言」 』

【著者】 羽馬千恵 【月額】 初月無料!月額324円(税込) 【発行周期】 毎月 第4土曜日

print
いま読まれてます

  • 大人だって虐待で苦しんでいる。当事者が語る子供時代のトラウマ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け