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増税延期でダブル選か。予算100兆円報道から透けて見えた魂胆

3月27日、参院本会議で成立した2019年度予算。2兆280億円の消費増税対策を含む初の100兆円超えとなったわけですが、新聞各紙はこの予算についてどのように伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

「100兆円予算と政治」を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「予算成立 初の100兆円台」
《読売》…「老朽インフラ対策遅れ」
《毎日》…「一般会計 初の100兆円超」
《東京》…「深さ90メートル 強度基準下回る」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「消費増税 判断ジレンマ」
《読売》…「後半国会 対決回避へ」
《毎日》…「『統計』棚上げ 選挙モードに」
《東京》…「好データ つまみ食い」

ハドル

「100兆円予算」に注目が集まっています。テーマは「100兆円予算と政治」とでもしておきましょうか。

基本的な報道内容

参院本会議で、自公などの賛成多数で2019年度予算が成立。10月1日の消費税増税に備えた対策費は2兆280億円に膨らみ、一般会計の総額は101兆円超と、当初予算としては初めて100兆円越えとなった。

消費税増税延期で衆参同日選?

【朝日】の1面は、トップが予算成立」。左肩に「日産」、中央に写真付きで「朝鮮出兵朱印状」。2面の「時時刻刻」は「予算成立」に関連して「消費税増税」など。3面は1面記事を受けて「日産」関連記事と他2本。

改めて「予算成立」とその関連については、1面トップと2面の解説記事、4面政治面には後半国会など、11面は消費税ポイント還元が早くも生んでいる混乱について。

uttiiの眼

2面の解説記事「時時刻刻」は、「消費増税 判断ジレンマ」と大見出しを打ち、予算成立後の安倍政権にとって焦点となるのが、「消費税増税を予定通り行うのか夏の参院選に合わせて衆院解散に踏みきるか否か」だとする。

政府自身、景気判断を3年ぶりに引き下げるなど、経済の先行きが見通せなくなっている中、3度目の増税延期をするのではないかという疑念が渦巻いている。しかし、延期は安倍氏にとって「アベノミクス失敗を認めることになる。そこで、最近は「消費税を引き上げられるような状況を作り出していきたい」と強調することが多くなっているようだ。年2兆円の国民負担増に対して2兆3,000億円(2兆300億円の間違いか?)の支援策という“大盤振る舞いで切り抜けようとしている。ただ、延期論が燻り続けている背景には、消費税先送りの信を問うという形で参院選に合わせて解散・総選挙に打って出る可能性を残しておき、レームダック化を防ごうという安倍官邸の思惑があると見られている。

確かに、安倍氏から見れば、北方領土を巡る日ロ交渉も拉致問題も解決の道筋が立たず、もはや解散カードたり得ない。その後の政治日程を考えても、「消費税増税延期こそ最後に残されたカードに他ならない。となれば、増税直前までは「延期」があると思わせておいて、最後に増税に踏みきるのか。それとも、本当に延期するのか…。

記事後段は野党について。消費税増税を「安倍政権のアキレス腱」とみる野党は増税に反対する点で一致している。また、安倍総裁4選論も政権批判の呼び水にしたいようだ。だが、参院選1人区での候補者調整。もし衆参同日選となれば、立憲民主党と国民民主党の選挙区調整はいっそう困難になると見られている。

立憲からすれば、次の総選挙は安倍政権を追い詰めること以上に、新しい政権の屋台骨は自分たちが作るということをハッキリさせる選挙でもあるだろう。その意味では、現有勢力を反映させた「共闘」は国民民主党にとって過剰に有利であり、立憲民主党が野党第1党となるためには、敢えて共闘しない戦術もあり得ると考えているのだろう。際どい判断だが、そうせざるを得ないほどに、今の野党は全体的に弱すぎる

後半国会はベタ凪?

【読売】の1面トップは老朽インフラの問題で、《読売》の独自調査に基づくものだそうだ。「予算成立」は左肩、中央に「日産」関連記事。2面は「予算」関連で消費税増税対策についての記事と、あとは「ファーウェイ」など3本ほどの様々な記事を掲載。3面は解説記事「スキャナー」で「予算成立」後の後半国会について。同3面の社説の1本も「後半国会」がテーマ。

改めて「予算成立」について。1面左肩と2面記事から3面解説記事と社説へ。さらに8面9面の経済面にも大きな記事。

uttiiの眼

3面の「スキャナー」は予算が成立したことで国会がヤマ場を越え、後半は「夏の参院選を強く意識したものとなる」として、政府は野党との対決構図を避け、内閣支持率を維持したまま乗り切りたい考えだとしている。

記事は、後半国会で議論となる「幼児教育・保育の無償化」に対して野党は「金持ち優遇」と批判するものの、実利を得る有権者も多いことから「徹底抗戦はしてこない」と踏んでおり、また児童虐待防止法の改正案については立憲との間で協力が確認されているなどのことから、安全運転確実と見ている。

それにしても、《読売》の書き方はどうかと思う。「統計不正」(《読売》は「不適切統計」と呼称)については、「(追及は)論点がずれ、建設的な議論にならなかった」(公明党・山口代表)という与党サイドの“感想”的なコメントを紹介するだけで、まるで小さな問題だったかのような扱いになっている。この問題を追及しようとする野党や国民に対しての厚労省と安倍政権の不誠実さはメディアとして非難すべきことではないのか。

ともあれ内閣支持率は下がらず、最新の同社調査で50%を維持。安倍氏はG20で外交成果を上げて参院選に臨むことで「優位を保てると踏んでいるようだという

僅かに懸念材料とされているのが、桜田五輪相の失言問題。あるいは、かつての「消えた年金」問題のように、予算成立後に大きく問題化したこともあったことから、「油断は禁物だ。後半国会も緊張感を持つ必要がある」(与党幹部)という程度。

《読売》が描く安倍内閣の今後はさながら順風満帆”のようだ。

野党間に思惑のズレ

【毎日】の1面はトップに予算成立」。左肩に「日産」、中央に「新元号」。2面は「日産」についての大きな解説記事。左肩に「馬毛島」についての記事。3面は解説記事「クローズアップ」で「予算成立」とその後の国会について。

改めて「予算成立」については、1面トップと3面の解説記事「クローズアップ」、5面には野党共闘についてと社説、6面は消費税増税対策についての関連記事。

uttiiの眼

5面記事は、見出しに「野党共闘 見通せず」とあり、「各党の思惑がズレて展望が開けていないさまを伝えようとしている。

「統計不正」について野党は、アベノミクス失敗の「証拠」として、「毎月勤労統計」の調査対象入れ替えの前後で共通の事業所を比較するデータ(実質賃金の参考値)を出すよう迫っていたが、「厚生労働省は公表の可否判断を4月以降に先送り。統計不正問題は消化不良に終わった」とする。

他に、野党は名護市辺野古の新基地建設問題や桜田五輪相の閣僚としての資質でも政府を追及したが、「逆に的が絞りきれず低調な論戦となった」とする。

そうした状況の中、記事の最後段には、安倍首相が再び旧民主政権を批判したことが取り上げられている。安倍氏は参院予算委で、旧民主政権が導入した「子ども手当」につき、「あの頃、愚か者と考えていた人は多いのではないか。率直に言って私もその一人だ」と述べ、特に野党の旧民主党出身者は反発しているという。

これはかなり激しい議論になったようで、自由党の森裕子議員、国民民主党の田名部匡代議員などとの間でヒートアップしたようだ。《読売》は、後半国会の「幼児教育・保育の無償化」の議論もあまり激しいものにならないと予想していたようだが、案外、分かりやすい論点につながり、激しい議論が期待できるかもしれない。

有権者に響かなかった野党の追及

【東京】の1面はトップに辺野古」、左肩に「予算成立」、中央に「日産」という配置。2面は、「辺野古」に関する解説を「核心」で取り上げ、他に「元号」、「小学校教科書」の続報など。3面は「予算成立」に関する大きな解説記事が中心。

改めて「予算成立」について。1面左肩から3面の解説的な記事へ。

uttiiの眼

5面記事。野党は予算審議の中で「統計不正」問題を中心に追及したが、「不正が始まった経緯や組織的な関与など疑問は残ったまま。」として、森友・加計問題でも解明が進まず、記者は「野党の追及が効果的だったとは言い難い」と言っている。

思うに、野党の追及が効果的でなかった理由は、結局のところ、厚労省の特別監察委が2度にわたって詭弁を弄し、「組織的関与はない、隠蔽もない」としていたにも関わらず、再々調査に政権が応じなかったこと、また「毎月勤労統計」に関しては、調査対象入れ替え前の「共通事業所の実質賃金のデータを公開していないことが大きい。肝心な情報が政権によって秘匿された結果と言うこともできるだろう。残念ながら、そのことに対する国民・有権者の怒りを燃え上がらせることが、野党にはできなかった。結果、内閣支持率は大きく動かなかったことになる。

記事は最後に、駒澤大学・逢坂巌准教授の分析を引いている。

「森友、加計問題のようにあからさまな不公正が疑われたわけでなく、決定的な資料も出ず、野党の統計不正の追及は有権者に響かなかった。一方、政権側も外交や改憲で支持層にアピールできる成果は乏しい。」

image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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