外交には論理に支えられた戦略が必要
外交は仲良くするとか喧嘩するとかいう幼稚園レベルの話ではなくて、お互いに国益とその裏付けとなる歴史的経緯やそれを織りなす条約関係などの解釈に基づく論理とがあって、しかしそれを剥き出しにしたのでは交渉が成り立たないので、戦略というものが必要になる。戦略とは、どこを入口にして次にどう踏みこんで、上手く行けばここまでは到達したいけれども、上手く行かない場合でもこのあたりを落とし所にしようというような、二重三重のレイヤーを用意して交渉に臨むことである。
日本は昔も今も戦略不在で、いきなり戦術から始めてしまう。戦略抜きの戦術というのは常に過激になりやすく、さらにはその場限りの奇襲作戦に傾きがちになる。奇襲というのは、奇襲であるが故に成功する場合が多いけれども、だからといってそれが戦略不在を補ってくれる訳ではないことは、真珠湾攻撃とその後の太平洋戦争の経過を見れば分かる。
高級温泉旅館とか50万円のゴルフクラブとか新天皇との晩餐会とかはみな真珠湾攻撃のようなものであって、刹那的な戦術的過激主義でしかない。今回の、4島一括返還という伝来の主張をいきなり投げ捨てて歯舞・色丹の「2島返還プラスアルファ」にシフトダウンするというのも、それと同様で、戦略抜きの戦術主義の結果である。
本誌が繰り返し指摘してきたことだが、「4島一括」どころか「4島」そのものも言わないようにすることで「2島先行返還」の2段階交渉論も取り下げるということになると、つまりは「国後・択捉の主権主張放棄=歯舞・色丹のみ主権主張維持」ということで、そうすると必然的に、4島が「固有の領土」でありそれを1945年に旧ソ連軍が「不法占拠」したという歴史理解も放棄せざるを得ないことになる。
それならそれでいいし、私自身は最初から2島返還=決着論なので何も問題はないと思うが、日本政府としてはそれでは済まず、今まで言ってきたことのどこをどういう論拠で改めるのかを国民に対しても相手国に対しても論理的に説明しなくてはならない。それを「4島」「一括」「固有」「不法占拠」などの“言葉”を使わないようにすれば相手に“誠意”が伝わるのではないかという情緒レベルで物事を考えてしまうところに、安倍首相の根本的な思考欠陥がある
こんな幼稚極まりない交渉姿勢で、プーチンのような強か者を釣り上げられるはずがない。
image by: 首相官邸
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年4月22日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。
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