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破綻?崩壊?年金のプロは「老後2千万必要」報告書をどう見たか

 大きな話題となっている、金融庁が発表した「老後に2,000万円が必要」という報告書。「年金破綻も間近」などとセンセーショナルに報道するメディアもありますが、年金のプロは今回の報告書をどう見たのでしょうか。無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』著者のhirokiさんは、議論開始の第一段階として、「そもそもの年金制度」を今一度振り返っています。

そもそも年金は生活資金の全てを賄うように出来てはいない

金融庁の年金だけでは老後資金が2,000万円足りないの発表で世間の話題になってますよね。さらに話が飛躍して年金破綻だの崩壊してるだのと騒がれる。もうお決まりの流れというか。

なんていうかもうちゃんと読む気も考える気も起こらなかったんですが、金融庁が発表してたのは「将来の年金水準を維持する事が難しい」という事ですよね。だからより一層自助を求めるという話。その額が2,000万円足りないという。人により持ってる個人資産はバラバラなのに、支給されてる年金額もみんなバラバラなのに、なんだかすごくザックリした数字だなと思いました。

年金額は満額の老齢基礎年金、障害基礎年金や遺族基礎年金や一定の加算金などの支給額が定額となってる年金を除いては、誰一人として同じ年金額という人はほぼ見た事無い。まあ、そう安心できる年金額という人もそうそう見た事はないですが…2,000万円という大金が独り歩きして、そこだけであーだこーだと大騒ぎされてる。

まず、公的年金は生活資金のすべてを賄うものだという誤解も多いですが、公的年金ができた昭和20年前後の頃から生活のすべてを賄う事を目指して作られていない。そこはハッキリさせておきたかったから今までも記事でちょくちょく言ってきた事ではあります。

あくまで終身年金としての公的年金は生活資金の有力な足しにはなるが足りない分は自分で資金を用意する事が望ましいというもの。その考えは昔も今も変わっていない。

だから、大半の企業には退職金や企業年金が用意されてたし(厚生年金基金は公的年金と私的年金を無理矢理繋ぎ合わせていたから失敗した。適格退職年金は受給権保護の仕組みが脆弱だったから廃止された)、今も企業年金や退職金制度がありますよね。

昔は終身雇用や年功序列で長期勤務を奨励するために昭和10年頃から退職金制度が普及していきましたが、今現在は退職金制度は徐々に縮小し非正規雇用が増えて個人の企業年金(確定拠出年金とかの積立)が普及しています。とはいえ受給者の約6割くらいの人は全体収入が年金だけで暮らしている

また、年金が下がる方向になるというと年金崩壊に向かってると早合点してしまう人がいますが、年金が物価や賃金の変動で上がったり下がったりするのはもう50年ほど前からそういう仕組みになった事です。これは経済の伸びに取り残されないためです。物価変動や賃金変動という経済変動に合わせるっていうのが年金制度であり、もちろんそういうのが下がれば年金は下がる。そんなの決まり切ってた事であります。

しかし、平成10(1998)年までは物価はとりあえず上がり続けたから年金は下がらないものであるという誤解が浸透している。ちょっとでも年金下がろうもんならもう年金は崩壊に向かってるとかわけのわからん話題になる。

まあ、平成11年から13年までは物価が3年間で合わせて1.7%下がったにもかかわらずに、この時期は金融不況で大手金融機関や企業の倒産が相次いだ時期であり、年金受給者の生活に配慮して年金を引き下げずに年金額を据え置いたという悪しき事例はありますけどね。年金受給者からの反発で選挙に影響する事を恐れて下げずに翌年の年金額を据え置いたともいえる。本来はここは年金を引き下げなければならなかった

平成14年、平成15年も合わせて物価が1.2%下がりましたがさすがに耐えきれずに原則通り1.2%年金の下落に初めて政府は踏み切った。本来はそういうふうに物価変動や賃金変動という経済変動の影響を受けて上がったり下がったりするのが年金であります。

「物価が下がれば年金も下がる」を理解しない世代が次世代を潰す(hirokiまぐまぐニュース参考記事)

年金は現役男子の平均賃金の約60%台を目指すという考えに昭和48年改正で変わって、同じ時に物価スライドと賃金スライド(物価や賃金に合わせる)が導入されました。つまり、「60%台の年金を確保する為に必要な現役世代の保険料徴収を求める」という考え方ですね。

昔はまず年金受給者の給付ありきでそのために現役世代から負担してもらう保険料を考えるというやり方でした。先にいくらの年金を支払いたいという目標を決めて、それに必要な保険料を決めるというやり方ですね。

しかし、少子高齢化の進行が予想を超える速さで進む事により、支えられる側の年金受給者は増えて支える側の現役世代は減るという方向に傾き始めました。こうなると現役世代の負担は際限がないですよね。経済成長が右肩上がりだった昭和だったらそれで良かったんですが、バブル崩壊と共に経済が停滞した平成ではそれは難しくなりました。それこそ年金制度が維持できなくなります。まさに破綻やむなし!の状況になる。

昭和60年の年金大改正の時にこれからも止まらない少子高齢化で現役世代の保険料負担限度をあまりにも過大にしないために、20年かけて年金水準が大幅に引き下げられた

年金額の引き下げという点においてはもうこの昭和60年改正の時に大胆に行われた。

※昭和60年の年金大改正の詳細はこの記事では省略

昭和60年年金大改正についてなど(2017年10月有料メルマガバックナンバー)
第二次世界大戦から蘇った年金と歩みなど(2018年8月有料メルマガバックナンバー)

さらに年金受給者の現役男子の平均賃金の60%の年金を目指すという方向から、まず現役世代が負担できる限度を決めてその中で年金給付を行うというやり方に変更されたんです。

その保険料財源の中に収まるようにマクロ経済スライドというのを使って、年金額をのものを引き下げるのではなく価値を下げていくという方法を取っています。マクロ経済スライドについては過去記事で何度も話してきたのでそれを参照ください^^;これは平成16年改正で導入されました。家計でいえば毎月入ってくる給料の中で支出をやりくりするという事です。

続きは6月19日20時の有料メルマガで配信します。

事例と仕組みから学ぶ公的年金講座

image by: StreetVJ / Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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