なぜ超有名フレンチのシェフは自分の店を「7合目」と語るのか

 

■今の日本のフランス料理について思うこと

日本におけるフランス料理はまだ最高峰とは言えず、まだまだやることはある。今の若手が迷っているのは、フランス料理の最高峰を知らずにフレンチを作っているから寿命が短い。木の幹が太くないと厳しい。60年代のフレンチが基本だがまだまだ…。

■お客様からの教え

10代にがむしゃらに遊んだことが人間形成につながっている。遊んでいない人はいいことが出来ない。例えば相手を殴って痛みがわかり、加減もわかる。まさに「いい加減」。また、いいお客様にお越し頂き、人間を研かせていただいたことが今、良い方向で生きていられることにつながっている。

30代は社会のために、40代になると育成につなげていく。若手には「金を追いかけるなロマンを追いかけろ」と伝えている。

■食を通して希望を届ける

最後までおいしいものを食べたい。食は人生の希望。ガンを患って、この先生がいるからこの先生に任せれば大丈夫という心の安心を感じたようなことを食を通じて届け続ける存在でいたい。

■人の育成

日本のフランス料理はフランスの技術を求めきっていない。フランス文化の歴史をもっと勉強し、基礎体力をつけて30歳までに力をつけ新たなことに対抗すればよい。ボキューズ・ドール(※2)という料理コンクールの中には文化があり、文化が無かったりお金を文化にするというのは国力が問題。どういう目標で食文化を育成するのかをもう少し考えていかないと負けてしまう。また、そのコンクールにお金がかかりすぎるという問題もある。

先輩や自分たちは上司に殴られてもその中に愛があり平気だったが、今料理界にも働き方改革の問題が出てきて、あまり厳しく出来ない。そんな状況だが、本物を本気でやる人間性が育っていない。私はこれまで命をかけて仕事をしており、第三者から見たら厳しいかもしれないが、ダラダラ育てても成果は出ずそれが愛ということを理解してもらわないと世界一を取ることは厳しい

※2 1987年にポール・ボキューズが創設した世界最高峰の料理コンクール。奇数年の1月にフランス・リヨンで開催されている。日本は第1回大会から出場。

■一流と考える水準

「シェ・イノ」は私が一流と考える水準からまだ7合目。あとの3合は、人の育成。お店を担える次世代を育成していく。国を背負ってやれる器量がないと厳しい

自分の人生は最後の最後まで良いものを食べ、いい話を聞き、楽しい会話をし続けて全うしたい。これまでさまざまなお客様と接してきたが、人間の考え方や品性がお金の使い方にも出てくると感じている。


●「シェ・イノ

ブログには関連画像や井上氏を取材された新書や料理本を合わせてご紹介いたします。ご興味をお持ちの方は合わせて以下を参照下さい。

image by: Shutterstock.com

嶌信彦この著者の記事一覧

ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」 』

【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

print
いま読まれてます

  • なぜ超有名フレンチのシェフは自分の店を「7合目」と語るのか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け