あるニュースサイトに掲載された友人女性に関する記事が目に止まった軍事アナリストの小川和久さんが、その記事には間違いがあると声を挙げました。その内容について、自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で綴るとともに、少し調べれば判明する事実も確認しない書き手の姿勢を問題視。フェイクがすぐに拡散される現代において、自身も物書きとして気をつけなければならないと心に刻んでいます。
パッカードとスカイライン
思いがけないことで、ハッと気づかされることがある今日今頃です。ウェブ上で雑誌をパラパラ(?)とめくっていて、友人のことを書いた記事に出くわしました。
その友人とは、大学時代のひととき親しくしていただけで、その後は顔を合わせたこともないのですが、間違っていることを書かれていると気になりますし、訂正しておこうという悪い癖が頭をもたげます。そこでツイートしてみました。
この記事で『大学時代には、ねだられて米国製高級車パッカードを買い与えたこともある』は事実誤認。大学時代は中古のスカイライン。よく貸してもらったから断言できる。アメ車はもっと後。>住友銀行の天皇「磯田一郎」会長弱点を形成したマザーコンプレックス #デイリー新潮
もっと言うと、彼女が中古車を買ってもらったのは大学3年の後半。大学4年の夏など、卒論を書くために明日香村の民宿に行っていて、車を乗り回すどころではなかった
記事のタイトルを見てわかるように、友人とは磯田一郎元住友銀行頭取の長女S子さん。その後、戦後最大の経済事件とされるイトマン事件の重要な当事者になるなど、想像もしていませんでした。
事件については、マスコミが伝えることで概略を知っているくらいですが、S子さんに批判されるべき点があれば、それは致し方ないのでしょう。磯田氏が目に入れても痛くないほどS子さんを可愛がっていたのも間違いありません。しかし、事実ではないことを書き加えられて、いかにも悪女のように仕立て上げられるのは、友人として「ちょっと待った!」と言いたいところです。
磯田氏はS子さんの学生時代、住友銀行の常務から専務になったあたりで、権勢ならぶ者のないほどの実力者でしたが、だからといって外車をぽんと買い与えるほど甘くはありませんでした。大阪府豊中市の自宅から京都に通ってくるにも、普段は阪急電車、ときに車というパターンでしたし、愛車も普通のスカイラインのセダン、それも中古車でした。私が「なんだ、スカG(スカイラインGT)じゃないのか。中古かいな」と言うと、「父はそんなに甘くありません」と返ってきたのを思い出します。
そこでツイートに戻りますと、すぐさま知人の自衛隊将官OBからコメントがありました。
1980年代半ばの駐米間、パッカードは見たことがありませんでした。当時、製造終了?
私もパッカードは名前くらいしか知りません。そこで調べてみると、なんと1958年に製造終了!S子さんが大学に入った頃には、既に製造されなくなって10年ちかくもたっていたのです。
誰に取材した結果なのか、どこからパッカードの話になったのかわかりませんが、記事の筆者はそうした点を確認しないままに、「大学生のくせに、おねだりした高級外車を乗り回していた」と、稀代の悪女に仕立て上げる道具立てとして「おねだり」や「パッカード」を使ったのでしょう。
以上の話は、引用されるほどに誤報が膨れあがるフェイクニュース・メカニズムの一面を示しており、モノを書く仕事をしている立場として、肝に銘じた次第です。
S子さん、コラムのネタにしてゴメンね(笑)。(小川和久)
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