この世の中に存在するあらゆる物について「美しい」と感じるとき、意識するしないにかかわらず、そこには数学的に共通するなんらかの法則が隠れているのかもしれません。メルマガ『8人ばなし』の山崎勝義さんが、黄金比と大和比(白銀比)、人が美しさを感じる2つの金属比について解説。日常においてそれらを発見することは「智の喜び」となると伝えています。
黄金比と白銀比のこと
黄金比というのがある。そのアスペクトレシオを分かり易く近似値的に表せば「1:1.618」となる。この縦横比が人間が最も美しいと感じる長方形と言われ、名刺を始め、建築(ピラミッド、パルテノン神殿)、美術(ミロのビーナス、モナリザ)等、世界中に多くの例を見ることができる。
先付けか後付けかこじ付けはともかくとして、自然界の現象の多くに見られるフィボナッチ数列もこの黄金比に収束して行くから、それなりの説得力があることも事実として認めざるを得ない。とは言え、前挙げた自然現象はほとんど螺旋として表れるものであるから、即、長方形的黄金比と直結すべきこととも言えない。
おそらく、先付け的に歴史的名建築等があり、後の世の人がそれにあやかろうと後付け的にそれを倣い、通時的観察者がそれほどのものなら何らかの理由がある筈とこじ付けたのであろう。実際、比として書いた時の面倒くささの割には幾何学的には容易に得ることができる。つまり、理論というよりは実用の比なのである。
話は少し変わるが、黄金だけが貴金属ではないのと同様に他にも貴金属比と呼ばれるものがある。それはちょうどオリンピックのメダルのように第一、第二、第三とあり、それぞれ金、銀、銅である。まとめると、
- 第一貴金属比 黄金比 1:1.618
- 第二貴金属比 白銀比 1:2.414
1:1.414(所謂、大和比) - 第三貴金属比 青銅比 1:3.303
となる。
このうち我々日本人にとり身近なのが、大和比と呼ばれる白銀比である。この「1:√2」で表わされる比は、建築(例:法隆寺)、美術(例:鳥獣戯画)、キャラクターデザイン(例:ハローキティ)等、通時的に見ても共時的に見ても日本のものづくりと共にあると言っていいほどのものである。特に紙の規格としての大和比は世界規格でもある。
この大和比は(当然のことだが)良くできていて、例えばコピー用紙の長辺をきっちり半分になるように折るとそれまでの短辺を長辺とする相似形が得られる。実はこの相似性の継続こそがその比を貴金属化させている理由なのではないかと思うのである。
というのも、人が何かを作ろうとする時、二つに折る、二倍に展開するなどの簡単な縮小・拡大作業をしても猶縦横比のh変わらないモデュールは極めて使い勝手が良いものだからである。
前挙げた黄金比にも相似性の継続がある。白銀比(大和比)が展開式に生長して行く相似であるのに対し、黄金比(フィボナッチ数列)は螺旋式に生長して行く相似なのである。そう考えればこの黄金比が自然界に多く見出せるのも頷けるのではないだろうか。
例えば、巻貝が成長する際、古い部分はそのままでもその螺旋に沿って開口部だけ大きくすれば全体のバランスは全く変えずにサイズだけを大きくすることができる。自然は極めて合理的なのである。
人は相似が好きである。同一分野内でも分野横断的にでも、そこに相似形を見出せば智は喜びを感じる。その知性に感情が共鳴した時「ああ、美しい」と感じるのである。改めて自分の周りにどれだけの相似形を見出すことができるかやってみると楽しいのではないだろうか。
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