なぜ「藍」は歴史の荒波を抜け「ジャパン・ブルー」になれたか?

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人類史上初の染料とも言われる藍。日本ではジャパンブルー、海外ではインディゴとしても名高く、幅広い人達に親しまれ続ける染料です。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、世界の服飾史の中で紆余曲折を経て受け継がれた 「藍染め」 の魅力に迫ります。

生きた藍が生む伝統の粋 「ジャパン・ブルー」

1. さまざまな藍染めとインディゴ

ここで 「藍染め」 「インディゴ」 という言葉について確認しておきたい。

藍染めの起源は、生の葉を使う藍染め 「生葉 (なまは)染め」 だ。生葉染めは季節も限定され木綿が染まらないし、絹でも濃色には染まらない。 そこで、日本では蓼藍 (たであい)の葉を堆肥のように発酵させ、すくもを作り、それを再度発酵させて染める天然発酵建てという技法が生まれた。

藍の色素を持つ植物は一つではない。世界各地で独自の植物を藍染めの原料として使っている

ヨーロッパの藍は、ウォード (アブラナ科)だ。葉を乾燥させ、それを石臼で粉にし水を加えて発酵させた後、ボール状にして乾燥させ、藍玉を作る。ここまでは日本と似ているが、藍玉から藍を建てる時にヨーロッパでは尿を使っていた。

インドでは、豆科の植物からインド藍 (インディゴ)が作られた。インド藍は琉球藍などと同様に沈殿法で作られた沈殿藍である。 16世紀中頃にインドから安価で良質なインディゴがヨーロッパに輸入されると、ウォードは淘汰された。インディゴはウォードより30倍も濃く染まったからだ。世界の藍はほとんどがインディゴに取って代わられた。

2. 大多数の藍染めは合成インディゴ

更に、1900年頃、合成インディゴが開発され世界のほとんどの藍染めは合成インディゴに変わった。 混乱しやすいのは、藍染め」とは蓼藍による天然発酵建て藍染め、天然インディゴ染め、合成インディゴ染め等の全ての藍染めが含まれていること。また、英語表記では全てがインディゴになることだ。色だけを見るとこれらの藍染めの色はほとんど同じである。

但し、デニム等では様々な染料がミックスされており、純粋なインディゴ色ではない。 ピュアインディゴ」とは合成インディゴの色だけで染めた生地であり、植物染料で染められたものではない。

更に、藍染めと類似した染料に硫化染料がある。硫化染料とは、アミノフェノールなどの比較的簡単な芳香族化合物を硫化ナトリウムまたは硫黄と溶融して得る染料の総称である。

染色の際には、硫化ナトリウムによって還元して水溶性にし木綿などの繊維に付着させたのち、空気または酸化剤によって不 溶な染料を再成する。硫化染料は藍染めとは言わないが、藍色に染めることはできる。

最初に硫化染料で染めた生地の上に、合成インディゴで染めたり、天然発酵建ての藍で香りつけをすることもある。

一般の人がこれらを区別することは困難である。

3. 化学建ての藍染め

布を染色することだけを考えるなら、合成染料で十分である。植物染料の色を再現することも可能だし、更に鮮やかな色で染色することも可能だ。

中国や東南アジア、アフリカなどの少数民族の民族衣装に鮮やかな色彩が多いのは、合成染料が使われているからである。合成染料以前の民族衣裳はもっと地味だった。

合成染料には、発ガン性を持つものもあり、日本では2016年4月からアゾ染料 (特定芳香族アミン)を使用した繊維や革製品の販売が規制された。ドイツでは1994年に使用禁止になっており、日本は20年も放置していたことになる。

しかし、アゾ染料だけが有害で後は無害というわけではない。 天然発酵建て藍染めと、合成インディゴ染めの違いは、染色時に有害物質を使っているか否かである。

合成インディゴの染色は、ハイドロサルファイトナトリウムや苛性ソーダを使う 「化学建て」である。化学的に無理やり色素を抽出する感じだ。天然発酵建て藍染めは発酵菌の力を借りてゆっくりと色を醸し出す。効率は悪いが、身体に有害な化学薬品は一切使用しない。

4. 天然発酵建てと灰汁建て

伝統的な天然発酵灰汁建てでは、井戸水の中に 「蒅 (すくも)」と発酵菌の餌となる 「ふすま (麦の糠)」にアルカリ剤として木灰や貝灰を加える。 「灰汁建て」 は最も由緒正しく、伝統的な技法である。コストも高いので、工芸的なきもの、絹織物等に使われることが多い。

野川染織工業では大量の綿糸を工業的に糸染めしているため、アルカリ剤には灰ではなくソーダ灰 (炭酸ナトリウム) を使っている。伝統工芸的な製品ではなく、あくまで実用的な天然発酵建て藍染めである。従って 「灰汁建て」の文字は使わず、 「天然発酵建 て」 と呼んでいる。 それでも 「蒅 (すくも)」を原料にして 「ふすま」を与え、恩義管理をしながら藍の世話をしていることには変わりがない。藍は生きており、世話をしないと染まらなくなるからだ。  

「化学建て」は刺激臭がするが 「天然発酵建て」 はスルメのような有機的な独特の匂いがする。色は同じでも使っている物質が違う。有害化学物質を使っていないので排水処理をする必要もない。オーガニックな染色方法である。

天然発酵建て藍染めの藍は間違いなく生きおり生きたままの状態で糸になり織物になる

image by: shutterstock.com

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