真の理由は、米中覇権戦争
上記の理由は、どれも重要です。しかし、実をいうと、習の国賓訪日に反対すべき真の理由は「米中覇権戦争」です。
アメリカは2018年7月、8月、9月と連続で、中国製品に対する関税を引き上げました。そして、2018年10月のペンス演説で、世界中の研究者は、「米中覇権戦争がはじまった…」と理解した。別の言葉で、「米中新冷戦がはじまった」という人もいますが、意味は同じ。
米中関係が最悪になったので、中国は、日本にすり寄ってきた。ナイーブで世界情勢にうとい日本の政治家は、「米中覇権戦争がはじまった」ことすら知りません。それで、中国がすり寄ってきたことについて、裏の理由を考えることもなく、「まことにめでたいことだ」とこちらからも歩み寄るようになった。こういう状況をアメリカサイドから見たらどうでしょうか?
「我が国(アメリカ)は、中国と覇権戦争を開始した。すると、我が国(アメリカ)の同盟国・日本は、敵である中国に接近しはじめた」
これ、一般的な言葉でなんというでしょう?そう、【 裏切り行為 】です。トランプは、ムカついているに違いありません。そして、ムカつくのも当然でしょう。彼は6月26日、こんな発言をしています。
「日本が攻撃されれば、米国は第3次世界大戦を戦う。我々は命と財産をかけて戦い、彼らを守る」
「でも、我々が攻撃されても、日本は我々を助ける必要はない。彼らができるのは攻撃をソニーのテレビで見ることだ」
これを聞いて、「トランプがまた変なことをいいだした」と思った方も多いでしょう。しかし、「原因は日本側にある」ことを、私たちは理解しておく必要があります。
そして、2019年10月22日、即位礼正殿の儀が行われました。世界各国から、国王、王妃、大統領、首相などが、日本に集結した。しかし、その中で、もっともランクの低い人を派遣したのは同盟国アメリカです。アメリカから出席したのは、運輸長官でした。これを見て、「ずいぶんアメリカに舐められたものだ」と怒るのは愚かです。
元々ペンス副大統領が来る予定だった。それが、運輸長官になった。理由は、日本側にあると見るべきです。
2015年3月、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など、親米諸国が、アメリカの制止を無視し、中国主導AIIBへの参加を決めました。しかし、日本はAIIBに参加せず、アメリカに喜ばれた。2015年4月、安倍総理は、アメリカ議会で演説し、いいました。
米国国民を代表する皆様。
私たちの同盟を、「希望の同盟」と呼びましょう。
アメリカと日本、力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所にしていこうではありませんか。
希望の同盟──。
一緒でなら、きっとできます。
アメリカの議員さんも涙した、歴史的名演説でした。オバマも歓喜して、「歴史的訪問に感謝する。日米関係がこれほど強固だったことはない!」とツイートした。
ところがどうでしょう。いざ米中覇権戦争がはじまったら、希望の同盟国日本は、真っ先にアメリカを裏切った。つまり安倍総理は、自らの言動で、「希望の同盟演説は、口からでまかせだった」ことを証明したのです。
より深刻なのは、日本政府のトップに「裏切り行為をしている」という自覚も認識もないことです。宮脇淳子先生は、『日本人が知らない満洲国の真実』の中でこう書かれています。
日本人が自分たちのしたことについて、まったく自覚がないところは悪い点です。
日本がパリ講和会議で出した人権差別撤廃法案にしても、あれがいかに欧米の人間を困らせたか、日本人は全然理解していません。アメリカがハワイを併合したときも、日本はかなり文句を言いました。アメリカはすごく腹を立てましたが、日本はそれについて無自覚で、その後、アメリカが日本に報復したくなるとは思いもよりませんでした。日露戦争で満州や朝鮮への野望を打ち砕かれたロシアは、日本に仕返ししようと待ち構えていました。
この話、私もその通りだと思います。今風にいえば、こんな感じになるでしょう。
日本人が自分たちのしたことについて、まったく自覚がないところは悪い点です。
日本が、アメリカの敵である中国の長、習近平を国賓招待したことが、どれほど深刻な裏切り行為であるか、日本人は全然理解していません。アメリカが「タンカー防衛有志連合をつくろう」と提案した時も、日本は完全にシカトしました。アメリカはすごく腹を立てましたが、日本はそれについて無自覚で、その後、アメリカが日本に報復したくなるとは思いもよりませんでした。
2015年、16年、安倍総理は、見事に中国の反日統一共同戦線戦略を無力化しました。日本を敗戦国から戦勝国に転換させ、「偉大な宰相」になるチャンスがあった。しかし、アメリカに対する裏切りをサクッと繰り返すことで、今は、「人権侵害超大国中国に過剰接近して日本をまた敗戦させた残念な首相」になろうとしています。
ですが、まだ「偉大な首相」になる機会はある。その一歩は、習近平の国賓訪日を中止することでしょう。そして、アメリカの「希望の同盟国」として、行動することです。
日本は今、「勝利か、また敗戦か」の歴史的岐路にたっています。
image by: 首相官邸