来年に控えたパワーハラスメント防止法の施行を前に、その判断基準を発表した厚労省。とは言え、「どこまでが指導でどこからがパワハラか」という線引に関しては、迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、授業の担当から外された教員が起こした裁判とその結果を紹介する形で、パワハラに関して実務的に注意すべき点等を解説しています。
先生を「授業の担当からはずす」のはパワハラになるのか
いよいよパワハラが法制化されます(大企業は来年の6月から開始です)。その判断基準(何がパワハラになるか)について厚生労働省から発表がありました。
● 職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案(厚生労働省HPより)
みなさんの中にもご覧になった人もいらっしゃるかもしれませんが、その内容は、やはりというか判断が難しいところが多い印象ですね。パワハラの認定は個別の状況によって判断がわかれることも多くありますので、例として出すのは非常に難しいところがあったのでしょう。ただ、とは言えこのような判断基準が出されることは今までよりは前進と言えますし、今後が期待されるところですね。
さて、そこでパワハラについて実務的に注意すべき裁判があります。ある大学法人でその学校の先生が様々なハラスメント行為を受けたとしてその学校を訴えました。授業を改善し、それを文書で提出するように言われたり、それをしなかったら授業の担当をはずされたというのです。
ここでちょっと定義についてお話をすると、パワハラには次の6つのパターンがあります。
- 具体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
これにそってみると「授業を担当させない=5.過小な要求」にあたる可能性があります。
では裁判所はどのように判断したのか。
裁判の結果、この点については「パワハラがあったとは認められない」と判断されました。その理由は次の通りです。
- (この先生の)授業の内容、これに対する学生の苦情を踏まえて改善を促したにもかかわらず、これを改める姿勢を見せなかった
- 仮に(この先生が)授業を続けた場合、学生からの不満を招き、学科に求められる教育水準の維持ないし向上という要請を満たせなくなるなどの弊害が容易に想定されたつまり、学校側の業務命令は「授業の質をあげるために必要だった」と認めたということです。
ただし、です。結果として、「パワハラがあった」として、慰謝料を支払うように命じられました。なぜか。それは業務命令を出す過程での指導した先生たちの次のような行為が原因でした。
- (指導した先生たちの)メール送信や教授会での発言に教育内容に全く関係のない人格攻撃や中傷目的のものがあった
- (裁判をおこした先生の)心療内科への通院という高度なプライバシーに関する事項を公言した。これは必要性を全く欠いており、発言の意図も攻撃的な意図が窺える
その結果、これらの行為に対し「精神的苦痛があった」として慰謝料が認められたのです。
いかがでしょうか。「厳しい指導」と「パワハラ」は、明確に違いますし「厳しい指導」を一切すべきではない、とも思いません(もちろん程度の問題はありますが)。今回の裁判例について詳細はわかりませんが、もしかすると最初は「厳しい指導」だったのかも知れません。それが相手(裁判を起こした先生)が指示に従わないため感情的になり、それが段々とエスカレートしてつい不適切な発言をしてしまった、のだとするとこれはどこの会社でも起こりうることではないでしょうか。
「指導の目的」はもちろん重要ですが、それが正しければ、すべてが認められるわけではありません。それとともに「指導の仕方(言い方など)」にも、気を付ける必要があるのです。
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