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昇進したのに貰える給料が下がる『賃金の逆転問題』はなぜ起きる

労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な関係にある場合に当たる管理監督者のリスクは、今回の「働き方改革」で触れられなかった問題のひとつですが、いったいどのような問題なのでしょうか。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、管理監督者について詳しく解説し、そのリスクについても会話形式で詳しく紹介しています。

管理監督者のリスク

働き方改革がどんどん浸透して来ている。年次有給休暇の5日付与、長時間労働の上限規制、フレックスタイム制、中小企業の時間外労働60時間の猶予措置がなくなる。そして、まもなく同一労働同一賃金…。

ただ、定額時間外手当について、管理監督者についての未払い賃金問題はクリアにはなっていない。今回は、管理監督者のリスクについて取り上げたい。


新米 「そもそも管理監督者っていうのは、『労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な関係にある者』って言いますが、この経営者と一体っていうのが、どうもよくわからないんですよね。お客様にも上手く説明できなくて困っています」

深田GL 「管理監督者に当たるかどうかは、肩書や職位ではなく、その労働者の職務内容、責任、権限、勤務態様、待遇などを踏まえて実態で判断されるんだよ。確かに奥は深いね」

所長 「管理監督者の労務上のポイントをおさらいしておこうか。
    1.時間外労働:1日8時間、週40時間や時間外労働の概念がなくなるため、労働時間数の上限規制はなく、時間外手当は不要。しかし、管理監督者であっても、深夜労働は適用される。よって、深夜時間(22時~翌5時)の労働には、深夜手当として割増賃金の支払いが必要」

新米 「はい」

所長 「2.休憩:勤務の途中の休憩取得がなくても法律違反ではない。
    3.休日:週1日(又は4週4日)の法定休日の規制も受けず、休日手当の支払いは不要。
    4.休暇:『休暇』に関する規定は適用される。よって、年次有給休暇は一般の労働者と同様に付与する必要があるし、慶弔休暇など制度があれば、管理監督者であることを理由にその対象外とはできない」

大塚 「育児休業、介護休業も同じですよね」

E子 「もちろんよね」

所長 「5.勤怠管理:管理監督者は、タイムカードなどによる労働時間管理を原則とすることなどを定めた『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』の適用対象外。ただし、『健康確保』の観点から、使用者に適正な労働時間管理を行う責務があるため、労働時間把握措置を講じることは必要だ」

新米 「ありがとうございます。要は、社内で部長や課長などの管理職に就いていても、それなりの権限や待遇がない場合には、法律上の管理監督者としては認められないってことですよね」

深田GL 「そういうことだね」

新米 「そこまでは答えられても、具体的に質問されると、どう答えていいのやらわからないんですよねー」

大塚 「中小企業では、よく課長以上は管理職だからって言われることも多いですが、実際には法律上の管理監督者とは言えないんですよね」

深田GL 「前職でも、課長以上は時間外手当がつかなくなって、時間外手当が付く係長の方が月の給与は多かったなぁ…。そういう逆転現象が毎月当たり前だったよ」

新米 「それは問題ですね。その分は賞与で調整するってことになるんですか?」

深田GL 「そういうことだろうね。実際に当事者になるほど、長期間勤務していなかったからわからないけど」

E子 「明確な基準がないため一線を引くのは難しいけれど、待遇面が不十分な場合、特に管理監督者になって残業代の支給対象外となることで、管理監督者になる前や時間外手当が支給されている部下よりも賃金総額が少なくなる、いわゆる『賃金の逆転現象』が起きている場合は、多くの場合管理監督者性が否定されてしまうから、 注意は必要ですよねぇ」

新米 「やっぱり逆転現象が出たらアウトなんですね」

所長 「うん、管理監督者をめぐっては、役職に就いていても相応の権限や待遇がなされていない『名ばかり管理職』が『日本マクドナルド事件』(H20.01.28東京地裁 )を始め、判例も数多くあるね。

新米 「マクドナルドの事件は、話題にもなりましたね。あれは、店長さんの事件でしたね」

深田GL 「そうだね、店長就任以来、店舗の責任者として、アルバイトの採用や、従業員の勤務シフトの決定を含め、会社のマニュアルに基づき店舗を運営していた。勤務実態は、早朝には店舗に出勤し、店舗の運営にあたり、退勤が深夜に及ぶことも珍しくなく、時間外労働が長い月で137時間あった」

大塚 「月137時間ですか。45時間をはるかに超えていますね」

E子 「店長は、アシスタントマネージャーや店長に昇格していくレベルの社員を採用する権限はない。人事考課の一部に関与することもあり、労務管理の一端を担っていることは否定できないものの、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとはいい難い。店舗の運営については、会社のマニュアルに従うことが余儀なくされる。店舗で独自のメニューを開発したり、原材料の仕入先を自由に選定したり、商品の価格を設定するということはない。店長会議は、企業全体の営業方針、営業戦略、人事等に関する意見交換が行われる内容で、企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するものではない」

所長 「労働基準監督署は、多少甘いところもあるが、裁判所では、あくまで経営全体への関与が必要としているね」

E子 「店長は、形式的には労働時間に裁量があるとされているが、店舗の営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという勤務態勢上の必要性から、店長がシフトマネージャーとして勤務するとなると、長時間の時間外労働を避けることもできず、労働時間に関する自由裁量があったとは認められない。そう判断されていますね」

大塚 「でも、今までは、『管理監督者と認められなくなるので労働時間管理を行っていない』という会社もありましたけど、『労働時間の裁量を与えること』と『労働時間の管理を行うこと』は全く別の話ですよね。実際に勤務した時間数を管理することが管理監督者性を否定することになりませんよね」

E子 「管理監督者は労働基準法による労働時間の上限規制は受けなくても、長時間労働による健康障害や過労死が生じた場合には、会社はその責任を問われるんですものね」

所長 「そうだよ。上限規制はなくても、健康障害防止義務まで免除されるわけではない。要注意だ。あ、ついでいうと、これは、ハラスメント問題も一緒だよ。ハラスメントに認定されなくとも、安全配慮義務はある。万一自殺なんかに発展すると大きな問題だよね」

新米 「え?自殺!?」

所長 「それは極端だけどね。でも実例もあるんだよ。それから、賃金等の待遇も問題になるね。裁判所では、従業員全体のトップから数%。具体的には、年収が700~800万円以上としている。監督署では、事実上トップから20%の基準が残っているけど、徐々に厳格化の傾向にはある」

新米 「賃金については、そんなルールがあるんですね」

所長 「あ、これは目安だがね」

今週の新米からボスへ一言

管理監督者については、労働基準監督署と裁判での判断には、大きな差があるんですね。裁判所は、正社員の採用に実質的に関与が必要といい、監督署は、部門の統括的な立場でも許す傾向にある。ただし、最低限、非正規社員の採用の権限は必要。

勤務態様も、裁判所は、タイムカードの打刻は管理監督者性否定の要素といい、監督署は、長時間労働是正のための労働時間把握は許容。

結構差がありますねー。安全配慮義務、健康障害防止義務は注意すべきだと思いました。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 イケダ労務管理事務所 【発行周期】 週刊

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