失笑の極み。政府公表の関税撤廃率が朝日試算より約30%も低い訳

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欧米を中心に肉を食べないベジタリアンや、卵も牛乳も避けるビーガンが増加傾向にあります。食に対する考え方や食べ方の多様性が広がる中、農業や畜産の在り方もまた、転換期を迎えているかもしれません。そんな中、朝日新聞が興味深い記事を11月29日の紙面で紹介しました。政府が公表した関税撤廃率に不審な点を見つけ、朝日新聞が独自に試算をしたというのです。果たしてどのような相違点を見つけたのでしょうか?ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチDELUXE』で、新聞各紙の報道内容とともにその詳細を分析・検証しています。

農業の将来、農業の未来について、様々な素材から考える(2019年11月29日の朝刊ウォッチ)

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「米の香港人権法成立」
《読売》…「NHKネット事業費縮小」
《毎日》…「米、香港人権法が成立」
《東京》…「気候サミット演説 首相断られる」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「香港 米中の対立新局面」
《読売》…「2割負担 時期攻防」
《毎日》…「香港人権法 新たな火種」
《東京》…「議会の対中強硬に抗えず」

プロフィール

「はじめに」のところで「食肉」の話をしましたら、《読売》と《毎日》が「代替肉」「培養肉」についての大きな特集を載せていて吃驚。《朝日》は牛肉を含む米国との貿易協定に関わるスクープを展開、《東京》は国際面で、ヨーロッパで吹き荒れる農家による抗議(トラクターデモ)の記事を掲載していました。

きょうは、農業の将来、農業の未来について、様々な素材から考えます。

■政府の代わりに計算してみた■《朝日》
■肉食と地球環境問題■《読売》
■もはやジョークではない「培養肉」■《毎日》
■農家の言い分■《東京》

政府の代わりに計算してみた

【朝日】は1面左肩と7面経済面に、日米貿易協定に関する独自記事を掲載。見出しを以下に。

(1面)
農産品の関税撤廃率
政府公表「37%」
本紙試算「61%」
日米貿易協定

(7面)
揺らぐ 日米ウィンウィン
関税撤廃率「公表は恣意的」指摘

uttiiの眼

政府は「農林水産品の関税撤廃率TPPでは82%だったが、今回はそれより大幅に低い37%」と言っていて、45ポイントも抑制することで米国に対する譲歩は限定的だったと農家にアピールしていた。ところがこれは「品目ベース」の話。「金額ベース」は「作業が複雑なため出していない」としているので、「ならば」と《朝日》が試算の役目を買って出たということになる。調べてみたら、とんでもない数字が出てきた。政府は61%も関税を撤廃してしまっていた。日米協定で新たに無関税になるのは4,500億円分。今でも無関税の1兆700億円を合わせて、金額ベースの関税撤廃率は61%となった。では、《朝日》は何を使い、どのような計算をしたのか。これについては7面に詳細な説明がある。

《朝日》の計算方法は、農水省が作成したTPPと日米貿易協定それぞれについての農林水産物の「関税引き下げリスト」と、財務省の「貿易統計」、都合3種のデータを使っている。各協定のリストからは、元々無関税だった品目と新たに無関税になるものを抽出。各品目がどれだけ輸入実績があるかを「貿易統計」から抽出して足し、合計額を輸入額全体で割ったという。一定の数量のみ関税を撤廃する無関税輸入枠や無関税で輸入して国が一定額を上乗せするものを除き、牛・豚肉のように関税が引き下げられても撤廃されないものも除外。このルールは国が使っているものを踏襲した。

《朝日》実に見事という他はない。

統計は様々な場面で悪用されている。代表的なものは「食料自給率」だが、国の統計に対する疑念は、そもそもデータがウソというものを含め、実に多岐にわたっている。

今回、自動車関連の関税撤廃が実現しなかった場合、日本からの輸出品の関税撤廃は政府試算の1割強にしかならないことに加え、農林水産品の関税撤廃率が61%では具合が悪いと考えたのだろうか。統計の計算などはお手の物のはずの内閣府の官僚が、「複雑で計算していない」とはちゃんちゃらおかしい。金額ベースでも品目ベースでも計算して、その結果、品目ベースを選んだのではないのか。強い疑念が残る。

肉食と地球環境問題

【読売】は8面の国際経済面で、「代替肉」について紙面を大きく割いている。見出しは…。

(8面)
「代替肉」拡大 畜産業は防戦
食肉需要増を解決するか

uttiiの眼

《読売》が記事にしているのは「代替肉」。基本的には動物以外の原料を使って作られるものだが、そのなかに、動物から採取した細胞を培養して作る「培養肉」もカウントしていて、10年以内に市場に登場すると「予測」する向きもあるらしいことを伝えている。

どちらにせよ、肉の代用物が必要になってきている背景には、世界の人口増加がある。国連によれば、2019年に77億人の世界人口は、2050年には97億人となり、コンサルタント会社によれば、世界の食肉市場に占める動物由来の割合は2040年に40%まで下がり、代替肉が主流になると予測されているという。

代替肉は既に企業化されていて、米国のその名もビヨンド・ミート社の製品は、マクドナルドやケンタッキーチキンも期間限定で売り出したり、試験販売を行ったりしたという。そして、代替肉の最先端、「培養肉」のベンチャーには巨大穀物商社、米カーギルが投資している。

代替肉の割合が高くなるには理由があり、その1つは地球温暖化問題だという。家畜のフンやゲップから出るメタンガスは温暖化ガスの1つとされる。肉だけでなく、牛乳も忌避されていて、大豆やアーモンド、ココナツなどが原料のミルクが売れ、やがて食肉についても代替肉が好まれるようになるかもしれないという。メーカーは、ベジタリアンだけでなく、たまに肉食もする「フレキシタリアン」もターゲットに、売り込みを図っている。

当然だが、畜産業界とは戦争のようになっている。「フェイクミートが増え、消費者の誤解は拡がる一方だ」との批判から、動物由来でない製品を「肉」と名付けることを禁止する州法ができるなど、食肉売場から代替肉を排除しようという動きが盛んなようだ。

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