もはやジョークではない「培養肉」
【毎日】は1面左肩と、その続きが2面の「焦点」。見出しを以下に。
(1面)
培養肉 地球を救う?
動物の細胞 増殖させ食品に
産官学研究へ
(2面)
食糧危機「切り札」なるか
一大商機 各国開発競う
培養肉産業化へ
畜産農家 競合を警戒
市場投入 2年半後
uttiiの眼
《毎日》は、「代替肉」全般ではなく、まずは「培養肉」だけに焦点を当てて、新聞の記事としては本格的な取材を敢行している。様々な企業や機関が「培養肉」に注目し、研究開発に余念が無い。
1面は、産業化に向けて大手食品メーカーや大学、農水省が来年1月に研究会を発足させるというところから始まる。日清食品ホールディングス、日本ハムなどの食品大手に加え、細胞培養ベンチャーの「インテグリカルチャー」、東京女子医科大学、そして農水省などが参加。国内では培養肉に関する法律上の扱いも決まっていない段階で、まずは政府関係者に対する試食会を開くという。
世界の食肉需要は1人当たりに年38.1キロだった(2015~17年の平均)が、2028年には6%増の40.5キロになるとの予測があるという。
2面。これまで、精々ミンチ程度にしかならなかった「培養肉」を1センチ角の「サイコロステーキ」に作って見せたのは、東大生産研の竹内昌治教授と日清食品ホールディングスの研究グループ。2025年までに「ステーキ肉」を作る技術を確立することを目指しているという。他にも東京女子医科大学と早稲田大学の共同研究などもあり、厚さ0.8ミリ、直径3センチの肉をハムそっくりに仕上げたという。世界では他に米国やオランダなどの少なくとも20社が量産化に取り組んでいるという。
畜産業に対しては、共存を図るために、「培養肉」が普及した場合、畜産農家に技術を提供して「培養肉」を生産してもらうことを考えているというが、これはどのくらい実現性のある話なのか、いくらでも突っ込みが可能な話に聞こえる。
ところで、欧米では、別の動きが起こっているという。それが肉食そのものを否定する動きで、肉だけでなく、卵も乳製品も食べない「ビーガン」が増えている。植物を使って作られる「植物肉」を手がけるビヨンド・ミート社に勢いがあり、《読売》のところで紹介したように、消費者にも浸透しつつあると。思考の回路は別々だが、《読売》と《毎日》はともに、実は「植物肉」の浸透こそ、最先端の、最もダイナミックな変化だとみていることが分かる。もし「植物肉」が市場を大きく抑えてしまうようなことが起きた場合、「培養肉」は余程完成度の高いものを供給できなければ、生き残っていけないのではないだろうか。
農家の言い分
【東京】は9面国際面。欧州の農家の抗議行動。見出しを以下に。
(9面)
欧州トラクターデモ
環境問題「悪者」に農家抗議
安い農産物流入 危機感
uttiiの眼
幅が40メートルもありそうな太い道路の左右両端を、青色のトラックがそれぞれ2列、おそらく1キロ以上にわたって並び、まるで道路を埋めつくすかのような状態になっている。《東京》が当該記事に掲げた1枚のカラー写真は、ブランデンブルグ門に続くベルリンの大通りを、農家の大型トラクター5,000台が占拠した26日の模様を写し取っている。欧州の農家が、様々な「農家叩き」に対する抗議の声を挙げている。
農家の不満の最大の原因は、温暖化論のようだ。「気候変動など環境問題に関心が高まる中、農業が温暖化の「原因」として指摘されることへの不満が高まっている」という。牛や羊のゲップに含まれるメタンガスは温暖化ガスの1つとされ、悪者扱いを受ける。その他にも、人々の腹を満たしているのは自分たち農家なのに、農薬使用では農家ばかりが悪者にされ、一部の過激な菜食主義者は牧畜を「動物虐待」と非難して食肉店への襲撃を繰り返していると。さらに、南米南部共同市場(メルスコール)とのFTAでは安い農産品が流入することへの危機感が強まるなど、非常に強い不満から、激しいデモとなっているようだ。
こうした一面は日本ではあまり報道されないので、貴重な記事。
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