私は2010年、オーストラリア政府の後援のもと、豪日交流基金の研究助成を受けて、西恭之さん(現静岡県立大学特任助教)、渡辺一樹さん(現ハフポスト・ニューズエディター)とともに平和構築についての調査研究を行い、報告書『平和構築と国益』をオーストラリア政府に提出しました。当時の前原誠司外務大臣にも提出しましたが、別所浩郞外務審議官が自らダウンロードして熟読してくださったことも懐かしい思い出です。
この調査研究は、それまでの私の考えが正しいのか、それとも間違っているのかを検証する旅でもありました。そのうち最大の成果は、国連の平和維持活動(PKO)などに軍事組織を派遣することが国際的には「防風林(ウインドブレーク)」として位置づけられており、参考人意見陳述のときの私の考えと同じだということが裏づけられたことでした。
いかに復興支援をしようとしても、内戦に近い状態が続き、武装勢力が跳梁跋扈するところに、いきなり医療、農業支援などの関係者を送り込んでも、命を落とす危険性が極めて高いことはいうまでもありません。
最初のステップとしては、武装勢力を引き離し、安全地帯を創り出すだけの強制力を持った軍事組織を投入し、「防風林」の役割を果たさせることが不可欠というもので、それが世界に共通する平和構築の基本的な考え方です。
中村さんの「語録」に滲み出ているのは、軍事組織=悪という先入観です。むろん、平和構築に派遣される軍事組織と国家間などの戦争に投入される軍事力の編成・装備・運用などの違いを知っている人の考えではありません。
参考人同士として会ったとき、ひょっとしたら、私は控え室で中村さんに問いかけたかもしれません。「いくらアフガンで井戸掘りをしようとしても、安全地帯を創り出すことが物事の順序というものではないですか」中村さんは反論などせず、あの穏やかな笑顔を浮かべたまま、無言で下を向いたような気もしています。
その中村さんと会って、再度、同じ問いを投げかけてみたかった。そこでも中村さんは、無言で下を向くかもしれませんが、中村さんの崇高な活動には平和構築の基本を踏まえることが欠かせないからこそ、問い詰めてみたかったのです。
あるいは、「理屈では判っていても、軍事や軍隊と聞くと拒絶反応を抑えきれないんだよね」と答えてくれたかもしれません。いまは、中村さんからアフガンでの話を聞き、平和構築について語り合いたかったという思いを噛みしめています。(小川和久)
image by: Shutterstock.com, amazon