エレベーターがない団地の上階に若い家族が済まない訳

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高度経済成長時代に大量供給された「団地」ですが、今となってはその狭さやエレベーター無し等の条件が敬遠され、入居者の高齢化と空室増加に悩む建物が増えているようです。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』ではマンション管理士の廣田信子さんが、「先入観を排し住み替え需要を熟考すべし」とし、具体的な解決策を記しています。

若い夫婦なら階段も平気でしょう…はない

こんにちは!廣田信子です。

築50年をもうすぐ迎える1住戸が50平米の階段室型5階建て団地。都市郊外にたくさん見掛ける団地です。50平米では、子どもたちが中高生のころは、狭くてたいへんだったけど、この団地のコミュニティが好きで、そのまま頑張ってきて、子供たちが独立して、夫婦2人暮らし、そして、1人暮らしになると、ちょうどいい広さです。

でも、居住者の高齢化とともに、階段がきつくなるということで、一時期、何とかエレベーターがつけられないかといろいろ研究した団地も多かったと思います。でも、エレベーターを付けるのは、実質、不可能で、今はもうあまり言われなくなりました。

さて…高齢者には階段はきつくて住みにくくなるけど、体力がある若いファミリーなら平気だろうから、若いファミリーに住んでもらおう…というような発想をよく耳にしますが、それは、ほんとうでしょうか。

何ごとも思い込みは禁物です。

先日、伺った団地では、80代の高齢者の方々が元気です。杖をついて歩く90歳近い方も、がんばって階段を上り下りして、ちゃんと団地内の行事に参加されます。「私、去年股関節の手術をしたけど、階段の上り下りがリハビリになったわ。」という方も。

高齢になれば、階段の上り下りに時間は掛かるでしょうが、もう時間を気にして急ぐ必要もありません。休み休みでも、運動だと思えばいいのです。重い荷物は、配達サービスを使えば、なんとかなります。50年間近く、上り下りしているので、それが日常で、外の人間が思うほど、階段を苦にはしていないのです

「階段の上り下りを毎日しているから、うちの団地の人は、みんな健康なんだよ。高齢になったら、健康長寿のために、階段の上り下りがある団地に住もう!と言ってアピールしよう…」とポジティブに盛り上がりました。

このポジティブこそ、健康長寿の秘訣でしょう。エレベーターがないので将来が不安だというような方はいませんでした。それは、私の予想を覆すものでした。実際、世界でも、長寿の方が多い地域は、階段や坂道が多く、日常的に、上り下りの負荷運動をしているという傾向があるということはよく知られています。

高齢の方がこんなに気にしないのだから、若い夫婦は、階段なんてどうってことないかというと、致命的な問題があります。

家を探している若いご夫婦に話を聞くと、ベビーカーで家の玄関に入れない住居は考えられない…と皆さんいいます。ベビーカーなしでは、乳幼児連れで外出できません。ベビーカーは子供を乗せるだけなく、同時に荷物を載せて移動するのにも欠かせません。子供と荷物を載せて、そのまま、自宅の玄関に入れられるようでないと、とても子育てはできない…と。

せっかくベビーカーの中で寝ている下の子を起こして抱き上げ、5階まで運んで、泣いている子をベットに置いて、急いで戻り、荷物と上の子供を運んで、最後に、ベビーカーを運び上げるなんて…とても考えられないというのは、よくわかります。昔は、それをやっていたのでしょうが、エレベーターがあるのが当たり前の環境で暮らしてきた人には考えられないでしょう。

50平米という広さは、子供がまだ小さいファミリーに向くのですが、思いのほか階段が大きな障壁になるのです。

子どもたちが自分の足で上り下りできるようになれば、ベビーカー問題は解決しますが、子どもたちは、すぐ小学生になり、50平米が手狭に感じるので、そのくらいの子供がいるファミリーが家を探すときは、もう一回り広い住戸の団地を選ぶ可能性が大きくなります。

団地の空き室を減らす戦略も、どんな世代にとってこの団地がハマるのか…を、ちゃんと生の声を聞いて考えないとダメだと改めて思いました。

一方、最近は、高齢世帯のダウンサイズ住み替え需要があります。人生100年時代、老後資金2,000万円必要…が問題になりましたが、2人、1人には広すぎる住戸を売って、50平米に住み替え、差額の現金を確保する、そういうニーズもあるのです。かなり安く購入できますから、老後資金に不安がある方が、ポジティブに、早めに住み替えを考えるということはあるのです。

空き室を減らしていくためには、上階には、子育て世代に住んでもらおう…ではない実際のニーズを踏まえた戦略を持つことが必要だと、改めて思いました。思い込みを一度はずししてみましょう。

※表記に間違いがあり、タイトルを訂正しました。(2020年01月29日)

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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