なぜ最強囲碁棋士のイ・セドルは引退したのか?「AIには勝てない」発言の真意

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藤井聡太七段の活躍などもあり、空前のブームが起きているように見える将棋界。しかし、AI棋士の出現により引退する棋士もおり、将棋界は不安定な状況を迎えているようです。「ホンマでっか!?TV」でおなじみの生物学者・池田先生は自身のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の中で、さまざまな競技存続や人気度の明暗を分ける資本や政治の存在を示唆しています。

AIが圧勝?囲碁、将棋、スポーツ、オリンピック

世界最強の囲碁棋士の一人韓国のイ・セドルが、「努力してもAIには勝てない」という理由で引退したという話を聞いて、ちょっとびっくりしている。チェス、将棋、囲碁といったゲームは今やAIの方が断然強く、プロの棋士もほぼ勝てなくなってきている。囲碁は盤面が広く複雑で、AIがトッププロに勝つのは容易でないと言われていたが、「ディープラーニング(ヒトの脳の神経回路をまねた多層のニューラルネットワークによる深層学習)」を組み込んだアルゴリズムにより、あっという間に人間の技量をはるかに超えてしまった。

ルールが厳密に決まっていて、有限回のやり取りで勝負が決するゲームでは、計算速度が速いAIに勝てなくなるのは当たり前で、AIに勝てないからやめるというのは、不思議な感性だと思うしかない。陸上競技のトップアスリートは「どんなに努力しても、自動車より速く走れないので陸上競技はやめる」とは決して言わないだろうと思う。技量を競うという点では同じゲームなのに、囲碁、将棋とスポーツでは何が違うのだろう。

一番の違いは、スポーツはゲームの途中でも、現在どちらがリードしているか素人にもはっきり分かるが、囲碁や将棋は勝負の途中を見ただけでは、素人はもちろんのこと、プロでもどちらが勝っているかさっぱりわからない局面があることだ。自動車と人間が競走をすれば、だれが見たって自動車の方が早いのは一目瞭然なので、自動車と速さを競おうなどと考える人はいない。

しかし、プロの囲碁棋士とAIが勝負をしている途中を見ても、どちらがリードしているか容易にはわからない。囲碁や将棋ではAIのすごさは目に見えないので、超一流の棋士の中にも、AIがなぜ強いのか腑に落ちない人がいるのかもしれない。それで、イ・セドルのようにAIも含めて世界一になる望みがなくなったので、続ける気が失せるという人が現れるのだろうが、凡人には理解できない感性である――。

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