2019年12月12日に投票が締め切られたイギリスの総選挙は、ボリス・ジョンソン首相が率いる与党保守党の圧勝に終わり、1月31日までのブレグジット実現の公算が高まりました。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、フィナンシャル・タイムズ紙がジョンソン首相を「現代のディズレーリ」と評したのは、手腕を高く評価している証だと、日本人に馴染みの薄い19世紀の政治家を紹介。その上でジョンソン首相の政治手腕に注目だと述べています。
ジョンソンはディズレーリになれるか
総選挙で圧勝し、EU離脱を決めたボリス・ジョンソン首相について、イギリスの経済紙フィナンシャル・タイムズ(日本経済新聞傘下)は次のような見出しで長文の記事を掲載しました。
「現代のディズレーリは英国解体を防げるか?総選挙で圧勝したジョンソン首相、行く手に3つの戦略的課題」
といっても、記事でディズレーリに触れたのは次の部分だけです。
「ジョンソン氏は、自分は『ワンネーション保守主義者』だと言っている。この言葉は現代になってから、社会的なリベラルを意味するようになった。だが、ジョンソン氏はもっと昔にさかのぼり、ビクトリア時代に保守党を率いたベンジャミン・ディズレーリが書いた原典を思い起こしている。 ディズレーリも現首相と同じように変わり者で政治的な日和見主義者だと思われていた。当時は的を絞った社会政策と強烈な愛国主義によって、新たに選挙権を得た都市部労働者階級を取り込もうとした。(中略) 多くの人はまだ、選挙戦での見事な手腕にもかかわらず、ジョンソン氏が本当にこの仕事を成し遂げられるかどうか疑問視している。だが、もし成し遂げられたら、記念碑に値する人物になるだろう」(12月14・15日付 英フィナンシャル・タイムズ)
うまく記事を切り取ることができなくて申し訳ないのですが、どうやらフィナンシャル・タイムズはジョンソン首相を高く評価しているようです。
そこで、日本人に馴染みのないディズレーリです。ベンジャミン・ディズレーリは、グラッドストーンと並ぶ19世紀イギリスの政治家で、ユダヤ人というハンデをはねのけて保守党の党首となり、2度にわたって首相を務めました。小説家としても知られ、借金返済のために小説を書くハメになった話などは、それこそ小説の材料になりそうなほど波乱に富んでいます。
私はディズレーリのことを、子どものころから母親に聞かされて育ちました。ブラジル移民からスタートし、1930年代後半に上海でカレッジに学んだ私の母は、ディズレーリの伝記を読んで、苦労人の自分の人生を重ね、共感を覚えたようでした。
そして、物事を途中で投げ出す癖が直らなかった私に、小説を何回書いても出版社に採用されなかったが、それでも小説をものにして、ついには政治家としても成功するに至ったディズレーリのことを話して聞かせ、ネバー・ギブアップの気概を植え付けようとしていたように思います。
私のことはともかく、ジョンソン首相がディズレーリよろしく、政治家として大きな業績を残すことができるかどうか、これはイギリスだけの話ではなく、日本を含む世界各国に少なからぬ影響を及ぼすという点で、目を離すわけにはいきません。(小川和久)
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