伊藤詩織さん勝訴も山口氏の信じ難い暴言を糾弾せぬメディアの恥

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ジャーナリストの伊藤詩織さんが、フリージャーナリストの山口敬之氏から性的暴行を受けたとして損害賠償を求めていた民事裁判。12月18日、東京地裁は山口氏に賠償命令を下し伊藤さんが勝訴しましたが、判決後に山口氏が口にした「信じ難い暴言」を糾弾した日本のメディアは皆無でした。健康社会学者の河合薫さんは今回、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、当裁判を巡る世界と日本のマスコミの「あまりに異なる姿勢」を取り上るとともに、性的な被害に遭った人に対する我が国のサポート体制の貧弱さを問題視しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年12月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

日本の秘められた恥?

ジャーナリストの女性が、元TBS記者から性行為を強要されたとして損害賠償を求めた民事裁判で勝訴しました。判決後に行われた男性の記者会見での耳を疑うような発言に関する憤りは日経ビジネスデジタルに書いたので、「裏返しメガネ」では別の角度からこの問題を考えます(日経ビジネス:「自分絶対の『分断の壁』が日本を二流国に貶めた2019年」)。

今からちょうど2年ほど前になるでしょうか。あるラジオ番組で伊藤詩織さんとご一緒させていただいたことがあります。

当時、伊藤さんは事件のレイプ被害を受けた一人の女性として、そして、ジャーナリストとして、法律やメディア、社会に立ちはだかる壁を経験した状況を描いたノンフィクションの著書を出版していました。

私は当然、本の内容に関してお話しできると思っていたのですが、実際にはNG。「事件には触れないように」とプロデューサーから念を押されたのです。

「え?だったら何を聞くんですか?」と思わずたてついたところ、「彼女はジャーナリストなので、番組で取り上げるニュースにコメントをしてもらう」とのこと。なんとも釈然としない気分のまま生放送を終えたのを覚えています。

今、当時を振り返ると「これが日本の壁なんだな」と。性被害という「当人しか知り得ない」密室の出来事に対して、あくまでも傍観者という立場をとる日本のメディアの限界ではないか、と。世界のメディアの反応とは、大きな違いです。

実際にお会いした伊藤さんは、実に凛としていて、それでいてどこか怯えていて、必死で立っている。そんな印象を受けました。

おそらく私の想像が及ばないほどの厳しい日々に、負けなかった。権力や世間のまなざしに屈することなく、耐え続けた。その支えになった大きな要因の一つが、海外のメディアだったのだと思います。

日本では最初から「どっちが本当なのか?どちらが真実を語っているのか?」といった議論に明け暮れ、それがセカンドレイプになることを重んじませんでした。その状況は勝訴判決後も続いていて、件の日経ビジネスで取り上げた「被害にあった女性は…などという言説を糾弾しない姿勢からも伺えます。

一方、海外のメディアは声をあげた人を徹底的にサポートし続けました。過剰に「加害者」を糾弾するのではなく、「声をあげた人」が遭遇した状況に問題をフォーカスし、個人間の問題としてではなく社会の問題として扱いました。

例えば、BBCでは「Japan’s Secret Shame日本の秘められた恥)」というタイトルで、約1時間に及ぶドキュメンタリー番組を放送。被害者女性とその支援者たちの意見の加え、彼女たちへの批判も取り上げ、日本の司法や警察、政府の対応などの社会問題を専門家の意見を交えながら報じたのです。

2017年の法改正まで(強制性交等罪)、100年以上も日本社会では性暴力が窃盗より刑罰が軽かったこと、日本の刑法では合意の有無は強姦の要件に含まれていないこと、暴力や脅迫を被害者が証明しなければ日本では強姦とは認められないことなどに言及し、欧米の強姦に対する解釈や法律のあり方と齟齬があることも紹介していました。

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