災害時でも「譲り合い、助け合いの精神」で肩を寄せ合うなど、海外からも評価されてきた「日本人の民度の高さ」。しかし日本が誇るそんな美徳も今や失われつつあるのではないかと指摘するのは、情報戦略アナリストの山岡鉄秀さんです。山岡さんは今回の無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』で、自身が体験したある異変を記しています。
ラーメン屋で気が付いた日本の凋落
全世界のアメ通読者の皆様、山岡鉄秀です。
海外から帰ってくると、日本は歴史も文化もしっかりした国だな、と感じます。そういう国に生まれることはラッキーなことです。
ところで総合的に考えて、日本の良さ、日本人の良さとは何でしょうか?
ひとことで言えば、民度が高いことでしょうか?
大災害に瀕しても暴動が起きることもなく、人々はルールにしたがって静かに行動します。譲り合い、助け合いの精神を大事にします。逆に言えば、もしそれが無くなったら、日本人は日本人で無くなってしまうかもしれません。
いや、すでに日本人が日本人らしい長所を失い始めているとしたら?
先日、行きつけのラーメン屋に行った時の話です。朝11時開店と同時に入店しました。一人だったので、壁際の二人掛けのテーブルに着きました。店内はガラガラで、私ひとりです。
ふとテレビの方を見ると、イランが米軍基地に報復攻撃を行ったニュースが流れていました。私は思わずテレビの前のテーブルに移動してニュースに見入りました。
すると、若い女性のウェイトレスが来て、憮然とした声で言いました。
「ひとりならあちらのテーブルでお願いします」
私は答えました。
「そのルールは知っているけど、ちょっとこのニュースが見たい。今、客は僕ひとりだから、ちょっと見せてくれないかな?」
「いえ。社長に言われてますから」
見るからに、言われたことを言われたとおりにしかやりません、自分の頭では一切考えません、という態度です。
するとそこに店長が出勤して来ました。彼女が店長に話してくれというので、40代と思しき店長の男性と立ち話になりました。
私は、店の基本的なルールは承知しているが、あまりにも融通がきかなすぎるんじゃないか?と尋ねました。
すると店長は静かにうなずきながら言いました。
「お客さんのおっしゃることはよくわかります。うちも以前は客の要望に応じて柔軟に対応していました。しかし…」
店長の顔が曇りました。
「あまりにもわがままなお客さんが増えてしまったのです。店の都合はまったく無視で、混んで来たから席を移ってくれるようにお願いしても断られることが多くなりました。高齢者でトラブルを起こす人も増えました」
「最近はこんなこともありました。テレビでサッカー日本代表の試合を流していたら、ある年配の客が、自分はNHKしか見ないからNHKに変えろ、と言って来たのです。それで、NHKに変えたら、政見放送でした。その瞬間、他の客がしらけたのを感じましが、その客はお構いなしです。つい昨日も、年配の客が入って来て、金はないけどラーメンを食わせろとしつこく迫るのです」
「そんなことが頻繁に起きるので、柔軟な対応も難しくなってしまったのです」
店長の話を聞いて、暗然とした気持ちになってきました。
つまり、店側は自分勝手で迷惑な客の多さに嫌気がさしていて、柔軟に対応するカスタマーサービスを行う気も無くなっているというわけです。迷惑な客は若い世代よりも、むしろ高齢者に多いという点も気になります。
長引くデフレと所得の減少、自主的に考えさせない教育など、原因は多岐にわたるかもしれません。
いずれにしても、このラーメン店は、開店直後のガラガラの状態でも、ひとりの客がテレビ近くの4人掛けのテーブルに座ることを頑なに拒否する体質になってしまったのです。店が混みだす前に去るのは明らかなのに…。
私は店長に言いました。
「なるほど、そんな状況だったのですか。それは大変ですね。しかし、そんなことなら、テレビなんて要らないんじゃないですか?ラーメンさえ美味しければそれでいい。客はラーメンを食べて帰ればいいのです。問題の種は少しでも少ない方がいいでしょう?」
店長は無言でうなずいていました。
自分さえよければいいという態度の客と、言われたとおりにしか動きたくない従業員。
こんな日本人の姿は見たくありません。こんな風潮が一般化したら、日本は確実に衰退の道を歩むでしょう。
しかし、この店が直面する問題が特殊だとは私には思えないのです。
開店直後のラーメン屋でテレビニュースを見ようとしたばかりに、思いがけず日本が日本でなくなっていく姿を垣間見てしまったのかもしれません。
日本の危機はこんなところに現れているのです。
(山岡鉄秀:Twitter:https://twitter.com/jcn92977110)
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