1月25日に沖縄本島東方沖で起きた米軍ヘリの事故に関し、米側が「went down」という言葉を使ったことで、沖縄タイムスは「墜落」と主張。防衛省による「着水」との説明に疑問を投げかけました。これに対し、軍事アナリストの小川和久さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、ニュアンス的には「落ちちゃった」に近く、「着水」も的外れではないと解説。その上で、防衛省の説明不足も指摘しています。
「着水」か「墜落」か
1月25日に沖縄本島東方海上(那覇の東174キロ)で起きた米海軍のMH60ヘリの事故について、防衛省は「着水」と表現しましたが、沖縄タイムスは「米国側は墜落(went down)と表現している」と譲りません。あたかも防衛省側が、重大事故を軽微な事故を装って隠そうとしているかのような書き方です。続報でも次のように追い討ちをかけます。
「エスパー米国防長官は28日(日本時間29日)、沖縄本島東沖で起きた米海軍所属のMH60ヘリの墜落事故を巡り、ツイッターで、在日米軍と自衛隊による乗員の救助活動に謝意を表明した。事故については『墜落(went down)』と表記している。 エスパー氏が同事故について言及するのは初めて。 事故機が所属する第7艦隊は、発生直後の発表で『墜落した』の意味を含む『went down』と表現。米国では、主要テレビ局ABCやNBCニュース、米軍準機関紙『星条旗』や米海軍協会ニュースなどの軍事紙も『墜落(went down)』とそれぞれ報じている。 河野太郎防衛相は28日の記者会見で『パイロットのコントロール下で米軍のヘリが着水したと聞いている』と述べ、機体が操縦士の制御下にあったとの認識を表明。防衛省が事故機が『着水』と表現したことに『違和感はなかった』との認識を示してる。(後略)」(1月30日付沖縄タイムス)
そこでシカゴ大学で安全保障を専攻し、政治学博士号を取得した西恭之氏に聞いたところ、次のような回答が寄せられました。
「海軍安全センターは事故の程度をクラスA/B/C/Dとしか分類していません。1)死亡、2)身体の一機能の永久かつ完全な障害、3)事故機など財産の250万ドル以上の損害、4)有人機または大型・中型無人機(第4・第5グループの無人機、最大離陸重量1320ポンド超)の全損、のどれかに至った事故はクラスAです。
Went downはcrashを含む概念です。米海軍の報道発表などの文書には、同じ事故をwent downとcrashの両方で表現したものも少なくありません」
これを聞いて、英語と日本語のニュアンスの問題だと思うに至りました。今回のMH60ヘリの事故は、間違いなく「事故機など財産の250万ドル以上の損害」ですから、クラスAに分類されます。しかし、人的被害が出ていないこともあり、表現としては軽い事故として扱われたのではないかと思います。
明らかに機体がぐしゃぐしゃになり、人的被害も出るような墜落の印象が強いcrashではなく、「落ちちゃった」「落っこちた」というニュアンスで「went down」が使われたのではないでしょうか。
それを日本語として使う場合、「着水」とするのは至極当然のことです。その意味で、「着水」という表現に「違和感はなかった」とする河野防衛大臣のコメントは、それでよかったのだと思います。「コントロール下にあった」というのは、オートローテーションで降下したことを意味していると考えるのが自然です。防衛省としても、ニュアンスとしてぴったりくる日本語で表現した点を説明すれば、もっとよかったと思います。(小川和久)
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