ワイマール憲法に学ぶ緊急事態条項
新型コロナウィルス対策の一つとして、安倍総理が「緊急事態宣言が出せるよう法整備をする」と発言したことが物議をかもしています。
安倍政権にとって、憲法改正の目玉は第九条ではなく、緊急事態条項の追加だとされているので、そこに繋がる話です。
安倍さんとしては、「緊急事態に関する法律が整っていないから、今回のようなケースで、素早く的確な施策を打つことが出来ない。だから整備すべきだ」という論理なのでしょうが、それであれば、具体的に「どんな施策が(今の法律のままでは)打てないのか」を明確に示すべきです。
緊急事態条項は、政府が緊急事態を宣言することにより、普段よりも強い権限を得て緊急事態に素早く対処出来るように追加されるものですが、悪用される可能性も十分にあるので、慎重に考える必要があります。
その意味では、第二次世界大戦で、ドイツがワイマール憲法(もしくは、ヴァイマル憲法)の緊急事態条項をどう活用(悪用)したかを学ぶことは良い勉強になります。
ワイマール憲法の48条2項には、大統領の非常措置権限として以下のような国家緊急権を定めていました(Wikipediaより)。
ドイツ国において、公共の安全および秩序に著しい障害が生じ、またはその虞(おそ)れがあるときは、大統領は、公共の安全および秩序を回復させるために必要な措置をとることができ、必要な場合には、武装兵力を用いて介入することができる。
この目的のために、大統領は、一時的に第114条(身体の自由)、第115条(住居の不可侵)、第117条(通信の秘密保障)、第118条(言論の自由)、第123条(集会の自由)、第124条(結社の自由)、および第153条(財産権の保障)に定められている基本権の全部または一部を停止することができる。
憲法とは、どんな人が政権を握っても国民をないがしろにしないように、様々な国民の権利を定めていますが、こんな緊急事項条例があると、政権は、緊急事態宣言さえすれば、なんでも出来てしまうようになります。
ヒトラーはこれを利用(悪用)して、圧倒的な力を手に入れ、政敵やヒトラーのやり方に反対する人たちを刑務所に送り込んだり処刑したりし、合法的に(ここが重要!)独裁者となり、ユダヤ人を虐殺し、世界を戦争に巻き込んだのです。
つまり、下手に憲法に緊急事項条例を設けてしまうと、「政権に必要以上の力を持たせない」という憲法の効力に抜け穴が出来てしまうことになるのです。
去年、日本の弁護士会が、自民党の緊急事項条例に反対を表明したのはまさにこれが理由なのです。
下にいくつか関連する資料へのリンクを貼り付けておくので、これを機会に緊急事項条例に関して勉強しておくのも悪くないと思います。
【参考文献】
● 自民党、参院選公約に憲法改正で緊急事態条項…非常時に内閣に権力集中、弁護士会が反対
● 緊急事態条項の実態は「内閣独裁権条項」である
● 憲法改正「緊急事態条項」は本当に必要なのか?被災者を支援してきた弁護士が分析
● 『モーニングショー』が自民党の改憲案「緊急事態条項」の危険性を検証!
● 独ワイマール憲法の“教訓” なぜ独裁が生まれたのか(Youtube)
※表記に間違いがあり、本文の一部を訂正しました。(2020年3月12日)
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