森まさこ法相を「検察が逃げた」と口走るまで追い込んだ裏事情

 

その理屈をぶっ壊す事実を山尾議員は突きつけた。定年制導入が審議された81年4月28日の衆議院内閣委員会における質疑の内容だ。

神田厚議員(民社党) 「定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。検事総長その他の検察官…これらについてはどういうふうにお考えになりますか」

 

斧誠之助・人事院事務総局任用局長 「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております」

人事院は現在の国家公務員法に改正される時点で、検察庁法に定年の規定がある検察官には、国家公務員法の定年制は適用されないと明言しているのである。

山尾議員の指摘に、安倍官邸はさぞかし、あわてふためいたのではないだろうか。1月31日の閣議決定を、どう正当化するか。安倍首相は急ぎ、側近に妙案を求めたであろう。

2月13日の本会議。安倍首相はこの件について、平然とこう述べた。

「検察官も一般職の国家公務員であるため今般、検察庁法に定められている特例以外については一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については国家公務員法が適用されると解釈することとしたところです」

1981年以来の解釈をくつがえし、検察官の定年延長について「国家公務員法が適用されると解釈することとした」と言う。立法時の精神を無視するお得意の「解釈変更」をまたもや、やってのけたわけである。

これにより、本当は山尾議員の指摘によって、2月10日から13日の間に解釈変更されたにもかかわらず、1月31日の閣議決定より前に解釈変更されていたと口裏を合わせる必要が森法相や“忖度官僚”らの間に生まれた。

2月19日の衆院予算委員会で、山尾議員は、解釈変更がいつ行われたのかについて厳しく追及した。

山尾議員 「解釈変更したのはいつですか」

森法相 「1月下旬です」「内閣法制局とは1月17日から21日に、人事院とは1月22日から24日に話し合い、異論がないという回答だった。そのあとなので1月29日です」

山尾議員 「大臣が、昭和56年の国会答弁で検察官は国家公務員法による定年延長の適用外とされたのを知ったのはいつですか」

森法相 「人事院から考えが示された1月下旬です」

山尾議員 「誰が見ても2月10日でしょ。私が質問した日の」

実はこれに先立つ2月12日の衆院予算委員会で、後藤祐一議員(国民)の質問に対し、人事院給与局長、松尾恵美子氏は、昭和56年の法解釈をそのまま引き継いでいると答えていた。

その翌日の2月13日に安倍首相が突如として解釈変更を言い出したのは、松尾氏にとって、まさに「寝耳に水」だった。人事院が1月24日に解釈変更に合意したと言う森法相の主張と食い違ってしまった。

山尾議員はその点にも追及をゆるめない。

山尾議員 「2月12日に人事院は、現在までも同じ解釈を引き継いでいると言った。撤回しますか」

松尾人事院給与局長 「1月22日に法務省から解釈が示され、解釈を変えた。現在という言葉が不正確でした。撤回させていただきます」

恥を忍んで、明々白々のウソをつく羽目になった松尾局長はさぞかし不本意だったことだろう。

2月10日の山尾議員の指摘を受けた無理やりの解釈変更だったのを、1月31日の閣議決定前に法務省、内閣法制局、人事院がきっちりとした手順を踏んで行ったように、つじつまを合わせようとする。疑惑まみれの総理大臣が人事で検察コントロールをはかろうとする意図を察し、必死になる彼らの姿は、そこはかとなく哀しい。

森法相はこの問題の矢面に立ってきたが、野党の執拗な追及に、かつてヒステリックな民主党政権批判のネタに使った「検察は逃げた」がむくむくと蘇り、立場もわきまえずに口走って墓穴を掘ったのだ。「気分本位」は、迷いのもとである。

image by: 森まさ子 - Home | Facebook

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