忖度なしの笑いを提供。志村けんさんの死を各紙はどう伝えたか

 

ウイルスは人を区別せず

【毎日】は「余録」。スペイン風邪では、詩人のアポリネール、画家のエゴン・シーレにクリムト、社会学者のマックス・ヴェーバーも犠牲になった。日本では劇作家の島村抱月が亡くなり、女優の松井須磨子が後追い自殺を遂げた。

志村けんさんは、昭和から平成に掛け、コントの芸で「お茶の間のテレビ」の笑いの頂点を極めた人だとする。これから、映画の初主演、NHK朝ドラ出演で新境地を開こうという矢先のコロナ禍。余録子は「人々が不安を抱えて家にこもる今、家族を一つにする笑いが求められるさなかに奪われたコント王の才である」と悔しがっている。

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コロナ禍は様々な分野で才能を持つ有名人の命も奪っていく。だが、有名人ではない市井の犠牲者も、唯一の存在として、それぞれの社会的役割を担っていた人たちであり、何らかの意味で家族や社会を支えた人たちだった。有名人の死に打ちひしがれながら、そのことをも想起したいと思う。

名コメディアンの死

【東京】は「筆洗」。同様「七つの子」の替え歌のエピソードから。例の「カラスの勝手でしょ」は、子どもたちの間で流行っていることを演出家の久世光彦さんがいかりや長介さんに伝えたのだという。

筆洗子は志村さんを「笑いに真剣に取り組み、昭和、平成、令和の長きにわたって、日本をくすぐり続けた人だろう」という。「東村山音頭」「ヒゲダンス」「だっふんだ」などのナンセンスさが「それぞれ時代の憂いを束の間吹き飛ばしてくれた」とも。

こんなコントがあった。暗い夜道を歩く志村さんにお化けが忍び寄るが志村さんは気付かない。客席の子どもたちは「志村、うしろ、うしろ」と危機を伝えようとする。筆洗子が「助かってほしかった」というのは、コントのことなのか、それとも新型コロナウイルスのことなのか…。お化けとウイルスが二重写しに見える。最後に、「新型コロナの勝手にカラスが声をあげて泣く」と。

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替え歌の分析というのも野暮な話だが、「カラスの勝手でしょ」が今もなお爆笑を誘うには深い理由があるような気がする。「カラスはなぜ鳴くのか」という問いに対して、「科学」とか「理論」、「分析」「説明」「教育」「論理」といった枠組みで答えるのが普通だろうが、子供はいい加減そんなやり取りに疲れていて、問いそのものを崩壊させるような応答をした結果が「勝手でしょ」。「そんなこと聞いて何になるの?」「何がしたいの?」ということだろうか。この感覚は、老若男女、今も昔も人々の気持ちを見事に写し取っているように感じる。

【あとがき】

以上、いかがでしたでしょうか。

人にもよるとは思いますが、大人になると急に物分かりがよくなり、「ここは笑うところですよ」というシグナルがあると、笑うようになっていきます。協調性…と言えばそれまでですが、「忖度」でもありますね。しかし、笑ってはみたものの、よく考えると本当に面白いのかどうか分からない。そんなことが大人の社会ではよくあります。

そんな大人と比べると、子供はもっとずっと厳しい。本当に愉快でないと笑ってくれない。その子どもたちを圧倒的な力で引きつけたドリフターズと志村けんさんはやはり偉大な人たちでした。

お笑いは有り難い芸能文化です。思わず吹き出してしまうような笑いで免疫力を上げ、ウイルスとの戦いに、せめて善戦くらいはしたいものです。毎度申し上げていますが…健闘をお祈りします。

image by: Ogiyoshisan / CC BY-SA

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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