トランプ政権の「リア王」末期のような狂乱
さて、全世界の感染者数の33%、死者数の27%を出して突出的な最大被害国となった米国では、トランプ大統領がまるでシェークスピアの悲劇の主人公「リア王」のように、自らの無知と傲慢ゆえに孤立を深め、最後のアドバイザーだった宮廷道化師もいつの間にか姿を消してしまって、ついに狂気の淵にのめり込んでいくといった有様を演じている。
トランプは当初、全くと言っていいほど危機感を持たず、「4月になって少し暖かくなれば奇跡のように消えるだろう」などと超楽観的なことを言っていた(2月10日)。が、1カ月後になってようやく慌て出し、中国に責任を押し付けることで自分の不明ぶりが免罪されるかのように、「中国ウイルス」「武漢ウイルス」の呼び名を広めようとした(3月16日あたりのツイッターから)。4月に入るとこれがさらにエスカレートし、「武漢の研究所からウイルスが漏れた可能性があり、徹底的に調査中だ」とし、中国政府が意図的にウイルスをばら撒いた可能性にまで言及した。そして、「WHOが中国寄りだ」と称してこの最中だというのに資金拠出を停止し、さらに米政府系の対外宣伝機関である「ヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)」が武漢市の封鎖解除を祝う市内の様子を映像で伝えたことなどを理由に「米国民の税金を使って米国の敵の声を代弁している」とホワイトハウスの公式ニュースレターで非難した。
こうなると、身内でも何でも当たるを幸い機関銃を乱射している風情だが、もちろんトランプの言い分はでたらめで、VOA側は中国政府による統計の不備や偽情報の振りまきなどを客観報道している証拠を列記して反論した。ワシントン・ポスト紙が「根拠も示さずに相手を中傷し、煽動的な攻撃で追い詰めるやり方は、1950年代のマッカーシズムのようだ」と指摘した。このトランプの乱射事件を演出しているのは、「そして誰もいなくなった」に等しいホワイトハウスに残った最後の宮廷道化師=ピーター・ナヴァロ大統領補佐官兼通称政策局長で、彼は他に類を見ない極端な嫌中派として知られている。
しかし、いくら中国非難を強めても、それによって米国のコロナ禍が静まるわけではない。窮したトランプは、「抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、クロロキンという成分が効くらしい」という危ない話を何度も持ち出し(3月20日以降)、医薬品認可の頂点に立つ米食品医薬局(FDA)から「心臓に深刻な副作用があるので使用は慎重に」と牽制を受けてきた。さらに最近は「消毒液を体内に注射できないのか」とまで言い募り(4月24日会見)、専門家たちから「塩素系漂白剤にせよ他のどんな洗浄剤にせよ、飲んだり吸ったりするのは自殺したい時だけだ」と呆れ果てられてしまった。
こんなことが続くと、いまホワイトハウスでほとんど唯一正気を保っていると言われる国立アレルギー・感染症研究所所長でコロナウイルス対策班長のアンソニー・ファウチ博士が、ついにトランプを見限って去ってしまうのではないかと懸念されている。79歳の今まで6代の大統領に助言をしてきた感染症対策の大家で、会見では常に後ろに控えてトランプの間違いや言い過ぎを遠慮なく訂正する気骨者ぶりが人気だが、そのぶんトランプの狂信的な支持者からは憎まれていて、すでに何度も殺害予告を突きつけられ、トランプ手配の護衛を連れて勤務している。
彼が辞めるか殺されるかした時には、トランプを牢に閉じ込めないと米国ばかりでなく世界が危険に晒されることになる。
image by: 首相官邸