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火事場泥棒と蔑まれても黒川氏を検事総長にしたい安倍官邸の魂胆

先日掲載の「小泉今日子ら『#検察庁法改正に抗議します』きゃりーは削除」でもお伝えしたとおり、今や多くの国民が疑問を抱いている検察庁法改正案ですが、安倍官邸はコロナ禍を利用してまで国会を通過させようと画策しているようです。その改正案を敢えて「改悪と決めつけたい」とするのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』にそう判断する理由を記すとともに、法案通過のため官邸が用いる姑息な手法を強く批判しています。

コロナ禍のどさくさに検察骨抜き法案を通そうとする安倍官邸の姑息

コロナ禍のどさくさに紛れてと罵られようが、火事場泥棒と蔑まれようが、安倍政権はどうしても今国会で検察庁法を“改悪”したいようである。

検察官の定年を63歳から65歳に延長することを可能にする検察庁法改正案の実質的な審議が、8日から衆議院ではじまった。

東京高検検事長、黒川弘務氏の定年延長問題と密接にからんでいることは言うまでもないが、あえて筆者は“改悪”と決めつけたい。その改正案の中身が、あまりにひどいのだ。

改正の柱は、すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げること。ここまでなら、「人生100年時代」といわれる昨今の流れに合わせたもので、いいのではないか、となる。同時に提出された国家公務員法改正案も、定年を現在の60歳から段階的に引き上げて2030年度には65歳にするという内容だ。

しかし、改正の“急所”は別のところにある。簡単に言うと、以下の通りだ。

検察官は63歳になったら、最高検次長検事、高検検事長、地検検事正などの役職に原則として就任できない。役職定年制という。ただし、内閣が職務遂行上の特別の事情を考慮し、必要と判断すれば、役職定年や定年を迎えても、特例として最長で3年間、そのポストにとどまれる。検事総長も、特例で65歳以降の勤務延長をおこなえる。

要は、総理の意向しだいで、検事総長はもとより、次長検事、検事長、さらには検事正も、そのままのポストにいていいよ、ということである。

そうなると、どうだろう。検事総長の座をねらう検察幹部は、時の総理が望まない捜査に手をつけることをためらうのではないか。法務・検察上層部に、黒川氏のような“ヒラメ官僚”が跋扈すれば、この国の司法の中立性が失われ、三権分立は完全に崩壊する。

もとより、検事総長、次長検事、検事長の任免権者は内閣である。しかし、人を逮捕したり起訴して、その人の人生をガラリ変え得るほどの強大な権限を持つのが検察だ。

その検察幹部の人事に、時の政治権力者がお気に召すまま手を突っ込むことができるようになる。恐ろしいことだ。つねに民主主義を理解し、良心を重んずる政治家がトップにのぼりつめるとは限らない。

検察官は検事総長を頂点とした指揮命令系統に服することになっている。「検察官同一体の原則」という。

それゆえこれまで、検事総長は65歳の定年が近づくと、後任の検事総長を指名し、禅譲してきたのである。概ね歴代の内閣には、それを是とする良識があった。

検事総長に対して法務大臣が有する指揮権というものがあるが、これが発動されたのは、1954年の造船疑獄事件で、犬養健法相が与党自由党の佐藤栄作幹事長の逮捕を阻止した例くらいのものであろう。

今回の改正案が、安倍官邸お気に入りの東京高検、黒川検事長を検事総長に据えるための定年延長を、事後的に正当化する手立てとして考え出されたのだとしたら、日本の政治史に汚点を残す画策である。

いま、世界中が新型コロナウイルスの蔓延におびえ、日本でも医療や経済の崩壊を防ぐため官民一体となって頑張っている真っ最中である。

そんなおりに、検察の独立性を脅かす改正法案を提出し、世間の関心がコロナに向いているうちに、素早く通してしまおうという動きは、とても容認できるものではない。

もともと、安倍首相個人の疑惑に端を発している。「桜を見る会」の問題点が国会で指摘され、公選法や政治資金規正法違反の疑いで東京地検に告発状が提出されたことから、昨年12月になって、突如として黒川氏を定年延長させる案が持ち上がった。

黒川氏は法務省の官房長や事務次官だったころから、検察と官邸の間で立ち回り、特捜が本格捜査を始めたら政権にダメージを及ぼしそうな事件にストップをかけてきた。

たとえば、後援会観劇ツアーで有権者を買収した小渕優子・元経産大臣、URへの口利きで現金を受け取った甘利明・元経済再生担当大臣。明白な証拠がそろっているこの二人の事件を潰したのは、当時は法務省の官房長だった黒川氏といわれる。

これらの“実績”を、安倍首相は評価していた。余人をもって代えがたい、と思っていたのだろう。

ところが、現行の検察庁法では、検事総長以外の検察官は63歳に達したら退官しなければならない。1957年2月8日生まれの黒川氏の退官日は今年2月8日だったが、法律に従ってやめられては、検察に対する官邸の切り札を失ってしまう。

そこで、検察庁法に規定がないにもかかわらず、国家公務員法の「定年延長」をむりやり黒川氏に適用し、今年1月31日、「黒川東京高検検事長の勤務を今年8月7日までとする」という前代未聞の閣議決定をしたのである。

現検事総長、稲田伸夫氏は今年7月に在任2年を迎え、慣例では退任時期にあたる。黒川氏の勤務を8月まで延長すれば、稲田氏の後釜に黒川氏を据えることが可能になる。晴れて検事総長となったなら、黒川氏は、その恩に報いるため、安倍政権の安泰のために全力を尽くすはず、というのが官邸の胸算用であろう。

周知のとおり、この定年延長問題については、国会で激しい議論が交わされた。そのなかで、人事院がこれまで「検察庁法に定年の規定がある検察官には、国家公務員法の定年制は適用されない」としてきたことが明らかになり、閣議決定の違法性が問われる事態となった。

窮地を脱するために安倍首相は2月13日の本会議でこう述べた。

「検察官も一般職の国家公務員であるため…勤務延長については国家公務員法が適用されると、解釈することとした」

立法時の精神を無視するお得意の「解釈変更」をまたも、やってのけたのである。

今回の検察庁法改正案は、そのような無理筋の「解釈変更」を塗り替え、正当な法律として固めて、後々文句を蒸し返されないようにするのが目的と思われるが、その法案の提出方法がこれまた姑息である。

第二次安倍政権になって以来、複数の内閣提出法律案を束ねて一本の法律案として提出する「束ね法案」が目立っている。この検察庁法改正案も、国家公務員法改正案として「束ね」られた。

いわくつきの検察定年問題を国家公務員法改正案のなかに紛れ込ませ、コロナによる混乱に乗じて、さっさと通過させてしまおうという魂胆がありありだ。

案の定、改正案の審議が始まった5月8日の衆議院内閣委員会は、黒川問題で追及され続けた森まさこ法務大臣の出席を与党側が拒み、野党が反発するという波乱のスタートとなった。

いかに内閣委員会の場とはいえ、検察庁法改正については当事者である法務大臣が出席しないというのはどうみても異常である。それなら、内閣委員会と法務委員会の合同開催とし、森大臣を出席させよ、という野党の意見にも、与党はまったく聞く耳を持たない。

「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグの付いたツイッター投稿がものすごいピッチで増え続けているのをご存じだろうか。

一般市民、芸能人、小説家、漫画家、映画監督、ジャーナリストなどさまざまな分野の人々がSNS上で、安倍政権の自分勝手な法改正に怒りの声をあげている。

単なる怒りではない。こんな時に、コソコソ何やってるんだ!。唸り、叫び、訴えが混じり合って、地鳴りのように響き渡る。

なんでも、500万ツイートをはるかにこえたらしい。小泉今日子さん、「いきものがかり」の水野良樹さん、きゃりーぱみゅぱみゅさん、俳優の浅野忠信さん、井浦新さん、演出家の宮本亜門さんらも続々と。

この動きを、どこやらの報道番組は「SNSデモ」と称した。新しい抗議運動が、コロナ自粛の閉ざされた空間で生み出されている。驚くべき大きなうねりだ。

政府は、すみやかにこの法案を撤回して国会の波乱要素を取り除き、コロナ禍にあえぐ人々の救援に全力をあげるべきである。

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

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