世界中を驚かせた、北朝鮮による、開城の南北共同連絡事務所庁舎の爆破。これを指示したと言われるのが金正恩委員長の妹、金与正氏です。与正氏の過激な行動をはじめ、いま北朝鮮で何が起ころうとしているのでしょうか？ 国際政治学者の浜田和幸さんは、今回のメルマガ『浜田かずゆきの『ぶっちゃけ話はここだけで』』の中で、与正氏が進めているという新たな北朝鮮住民の「意識改革」について紹介。それは、小説、伝記、詩、絵画、映画などを使った壮大なプロジェクトだということです。その内容は、日本人の想像を絶する、意外で驚くべきものでした。
北朝鮮の金与正が進める意識改革：ハリー・ポッターに学べ！
ぶっちゃけ、北朝鮮では前例のない意識改革が進んでいるようだ。
韓国との間の「風船爆弾」合戦では強硬な姿勢を見せている金正恩委員長の妹、金与正であるが、彼女は今年に入ってから「朝鮮文学文芸総同盟」を総動員し、北朝鮮における金王朝の地盤固めに乗り出した。
何かといえば、小説、伝記、詩、絵画、映画などを通じて、金日成、金正日、そして金正恩の偉大さを国民の間に徹底的に刷り込もうというわけだ。
本年10月、北朝鮮労働党の設立75周年を控え、金与正は「少なくとも70本の文芸作品を完成させ、党、軍、国民の間に金正恩の天才ぶりと白頭山の血統の偉大さを浸透させよ」との号令を発している。
指令を受けた作家たちは、国内に散らばる金王朝ゆかりの地を訪ねて、作品の材料を集め始めていた。
そこに降って沸いてきたのが新型コロナウィルスである。その影響で、全国の学校や村々を回り資料を掘り起こす作業は全て中断してしまった。
ただでさえ、「朝鮮文学文芸総同盟」に所属していた作家たちの多くは2012年に金正恩が権力を継承した時点で粛清されたという。
というのも、それまでの作家たちは金王朝を礼賛するためとはいえ、「金日成は瞬間移動ができる超能力者である」とか「金正恩は3歳で自動車を運転し、幼いながらも銃の射撃は百発百中の腕前」といった信じがたい話を広めていたため、金正恩は「ウソもいい加減にしろ」と首を切ったと言われる。
その流れを受け、金与正は北朝鮮の文芸家に「歴史に耐えうる史実に基づく作品作り」を指示したのであろう。
「ハリー・ポッター読書指令」の次は、日本のあのアニメ作品も？
しかし、それだけでは国民を満足させられないと思ってか、世界的に大人気の「ハリー・ポッター」シリーズを推奨し始めたのである。
この6月20日に出版された「文芸新聞」には「祖国の子供たちが自らの力と可能性を高めるためにはハリー・ポッターから学べることは多い。パイオニア精神を身につける上で、ハリー・ポッターは素晴らしい模範となる」との論評が掲載された。
実は、金与正は日本生まれの母親、高英姫に連れられ、日本を訪れたことがあり、東京ディズニーシーを満喫した経験を有している。しかも、その時出会った『美少女戦士セーラームーン』に心を奪われ、以来、日本のアニメファンになったという。暇さえあれば、日本のアニメのイラストを描いていた時期もあるようだ。
ぶっちゃけ、国際社会から孤立し、何かと評判の思わしくない北朝鮮であるが、ナンバー2の座に躍り出た金与正の「ファンタジー作戦」は北朝鮮の子供や大人の気持ちを変化させる起爆剤になるのだろうか。
image by: Kim Jinseok (Official photographer of the Blue House, Republic of Korea), Blue House (the executive office of the Republic of Korea head of state, the President of the Republic of Korea) / KOGL Type 1
