アメリカ人には理解不能。なぜ日本人はサービス残業をするのか?

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白人警官による黒人男性暴行死事件がきっかけとなり、ニューヨーク市は警察改革を行うことになりました。驚いたのはその改革によって削減される金額です。日本円で何と1000億円あまり。ニューヨーク市長はその浮いたお金を教育や社会保障に充てると発表しました。日本だと「そんなに削減して安全は大丈夫なの?」と思ってしまいがちですが、そこには日本とニューヨーカーのお金に関しての考え方の違いがあるようです。米国の邦字紙「NEWYORK BIZ」CEOでメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者である、ニューヨーク在住の高橋克明さんが、そんなお金にまつわる日米の国民性の違いを紹介しています。

ニューヨーカーにとってのお金

こんなニュースが飛び込んできました。

「NY市が警察予算約1000億円削減」。 黒人男性が警察官に暴行されて死亡した事件を受け、ニューヨーク市は警察改革を求める市民の要求に応えて警察予算を1000億円余り削減すると発表しました。

確かに、デモ隊が、NYPD(NY市警察)の予算削減を訴えるため、シティホール(市庁舎)前で抗議運動をしていました。 コロナによる経済打撃もあって、予算を抑えたかった市長にしてみれば、渡りに船だったのか、10億ドル(約1075億円)を削減する!と結構思い切った、かつ迅速な決断を発表しました。 その分、医療や、食料配布プログラムに回すとのこと。 ある意味、スマートな決断とも言えます。

ただ、その一方でやっと暴動デモが収まった矢先。 ここ最近、銃撃事件も多く、「余計、治安が悪くなる一方じゃないか!」との心配の声も上がってます。 うーん…確かに難しい。 とてつもなく高額な費用をインフラに投じる、「世界一割高シティ」ニューヨークでは、いくらお金があっても足りません。 「世界一税金が高いシティ」でもあるはずなのですが、医療、食料、警察、全部に十分には行き渡らない。

NYPD(NY市警察)にとっては、今回の予算削減、かなりの痛手であることは間違いないと思います。 経済制裁といえば、ちょっと不謹慎かもしれないけれど、市民の声を受け入れた結果です。

日本だと、どうなのでしょう。 僕はよくわからないのですが、たとえば警察が不祥事を起こし、国民が怒った結果、行政が予算を大幅に削減する、ということは珍しいことではないのでしょうか。 当事者を懲戒免職、というのはよく聞きますが、組織全体での金銭による罰則は、あまり聞かない気がします。

こっちでは、警察などの行政機関でも金銭によるペナルティーはよくよ行われます。 決して珍しいことではない。

日本だと「お金の問題じゃない!」という理屈の方が勝ってしまいそうにも思えるのですが、あらゆる罰則の中でも、貨幣経済の中、経済での制裁の方が等しく公平なペナルティーのような気もします。 「お金で解決するなんて、ひどい!」という声以上に、「とりあえず、お金で解決しよう」の声の方が多いのかもしれません。 もちろんケースにもよるけれど。

やはり、ひとつの指標として、共通のバリューを持つ、お金に対して、ニューヨーカーは日本人に比べ、より“おおっぴら”かもしれません。 この国では当然の権利、当然の義務、当然の報酬、当然の罰則の指標としてお金は露骨に登場します。

英語学校のマイケル先生のクラスで雑談していた時のこと。 彼は10年以上、日本で暮らした経験を持ちます。 その際、もっとも苦痛だったことが「サービス残業」という日本独自の概念だったと話します。

「サービス残業を断ったら、あいつは怠け者だと言われる。 どう考えてもおかしくないか???」と、10年以上前の出来事を、いまだに怒り心頭でしゃべってました(笑)。

「しかもさ、連中(日本の同僚、もしくは上司)は“サービス残業”って言葉を平気で使って、お願いしてくるんだよ! “サービス残業になっちゃうけど、今日、夜、残ってやってくれない?”って! “わかりました”って言うわけないじゃん!!!」

そりゃ、たしかに(笑)、 彼の気持ちはわかります。 日本独特の文化(と言っていいのか)は、日本で生まれ育った人間にしか理解できないことは多い。

「自覚はあるんだよね、資本主義の中で、報酬ないけど労働を提供する、ってことが理屈上おかしいこと。 だから、気まずそうに頼んでくる」と彼は続けました。

日本人は、日本人が勤勉だと言う。 それに対してアメリカ人は勤勉でない、と言う。 それは明らかに間違っています。 報酬が約束されれば、アメリカ人は日本人以上に勤勉です。 ただ、サービス残業は絶対にしない。 その概念自体が、彼らにはまったく意味不明。 1ミリも理解できないと思います。

まず、大前提として、どこからどこまでがサービス残業なのか線引きがわからない。 たとえば、「おまえは、奴隷だ!ここから先、ずっとタダ働きだ!」。 これなら、逆にわかる。 「報酬は一切もらえない」というルールなんだな、と理解はできる。 (実際にするわけはないけど)。

でも、「ちょっと、今月の締めまでは、残業代出ないけどさ、でも、まぁ、再来月以降、軌道に乗ったらさ、うん、その時はまぁ、ね、今回の分も、上乗せ…できる…かどうかは、まぁ、約束はできないんだけどね、でも、まぁ、そこはさ。 人間、そうゆー気持ちになるじゃん。 まぁ、ちょっと、とりあえず、ね、 今月は頼むよ。 そーゆーわけだからさ」……どーゆーわけ!!!???

日本の零細企業ではありがちなこの会話。 おそらくサッパリわからないと思います。

もちろん会社全体の売り上げによって、社員の給与が上がったり、下がったりはわかる。 当然です。 ただ、彼らにとってはこの大きな問題を、こんなファジーな言い方で済まされ、そのまま業務に突入させようとするのは、彼らにしてみれば、おそろしく理解不明だと思います。

頭の中、クエスチョンマークだらけのはずです。 再来月、乗せてくれるの? 決定なの? 未定なの? 口約束なの? なんなの? なにより、最大のクエスチョンマークは、この状態で、どうして他の同僚の日本人は、みんな納得して、黙って従ってるの!!!??
この一連の話を、僕は大笑いしながら聞いていました。

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