【書評】これはわかりやすい。太田光が爆笑せず日本の改憲を語る

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その毒舌かつ痛いところを確実に突くトークが長らく評価されている、爆笑問題の太田光氏。漫才師でありながら、さまざまな政治問題や社会問題にも精通していることで知られています。そんな太田氏が「憲法九条」を俎上に載せるとどんなことになってしまうのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、太田光氏が宗教史学者の中沢新一氏とともに、忖度なしで憲法九条について論を交わした一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:『憲法九条の「損」と「得」』

81JyvprA6OL憲法九条の「損」と「得」
太田光・中沢新一/扶桑社

論者二人のじつに分かりやすい優れた論議に安値をつけた、みもふたもない俗なタイトルである。太田光、いままで少しなめてました。すいません。14年も前の二人の対談「憲法九条を世界遺産に」は、ふざけたこと言うなと敬遠したものだが、じつはある種、憂国の情に突き動かされた内容であったと今になって知った。実にうまいタイトルなのだ。それに比べて今回のは露骨で無粋だ。

かまびすしかった改憲論議は次第に沈静化し、東日本大震災と原発事故のあとで論議は急速に色褪せていった。そしていま、国民的論議には全然なっていない状態で、国民投票が具体的な政治日程に組まれようとしている。改憲派は危ない賭けに出るつもりだ。その前に徹底した論議が必要だが、いまのところそんな気運もみられない。そこで前著を出した責任をとるため対談を行なった。

太田は戦前の日本を肯定的に捉えている人が、憲法九条を守ろうというのが一番しっくりくるという。もっと言うと非武装、まったく丸腰であるという状態を受け入れる。太田にとってはそれが覚悟なのだ。中沢は戦前と憲法九条をつなぐ何かを、真剣に捜し出すことが今求められるという。それをしっかりした形で取り出していくような知性が必要で、それがこの対談の裏の主題だという。

中沢 「論理的に矛盾だらけで構成されているあの憲法、とくに前文から九条に至る部分が、いかに見事に日本人の精神構造に適合しているかは明白で、逆に矛盾構造としてできている日本人の心を、みごとに表現しきっている」

条文の中に論理の空きのようなところがつくってあって、「免震構造」の働きをしている。自民党はそれをいいように解釈して、現実の政治に利用してきた。

改憲派の目論見は「免震構造」を固定建築に変えてしまう恐れがある。日本が壊れやすい国になってしまう。二人は日本国憲法を、奇跡的にできた作品、一種の芸術作品みたいなものと捉える。努力目標を掲げた理念の芸術作品として大切にするという姿勢はとても大切なことだ。今ある改正案ぐらいでは何も変わらない。国際社会の中の日本の立ち位置を考えると、ありのままがよろしい。

つまり、「ゆらゆら揺れる日本人」でいい。「いい加減」というか「良い加減」でいい。外部からどんな揺れが来たって倒れない。「言葉にしない」というのも日本人の知恵だ。国民投票をやって憲法が変わったとしても、中空構造日本人の本質は変わらない。立派な国軍にされたら、自衛隊自身が困惑するかも。

日本国憲法はアメリカが3週間程度でつくったものが、ポンと上から降りてきて押し付けられた、といわれてきた。わたしもそうだと思いこんでいた。大いなるデマであった。憲法作成に日本人が関与していないというのは、大ウソである。左翼は憲法をドグマ(宗教の教義)と勘違いし、絶対に変えてはいけないとアホを言う。それでも、憲法自体に矛盾を孕んでいるのは事実である。

中沢 「これまでの日本の政治は、その時その時で臨機応変に判断を微妙に変えながら、困難な事態をうまくくぐり抜けてきました。(略)それが政治家の知恵というものでしょう」

太田 「そうですね。拡大解釈で何の問題もなかった」。

「押し付けられた」といいながら「利用してきた」のだ。ありのままにいこう。思考を止めよ。国民投票なんか無駄な浪費だからやらないほうがいい。

編集長 柴田忠男

image by: R R / Shutterstock.com

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