新型コロナ「楽観論」に殺される国民。官邸の誤魔化しと思いつき

 

だが、そんなにうまくいくだろうか。一時的に観光業界などが潤ったとしても、さらに感染が拡大し、それにともなって重症者が増え、ICUや人工呼吸器や病床が不足すれば、またしても緊急事態宣言を発するほかなくなるではないか。

安心して社会生活を送るには、検査を最大限に拡充し、その結果、陽性と判明した人には、申し訳ないが、しばし街に出ないようにしてもらうほかない。

政府がいつまでたっても検査拡充に本気にならないのは、過去にハンセン病など人権を無視した隔離政策で非難を浴びた厚労省医系技官のトラウマがからんでいるといわれる。

たしかに、咳も熱もない無症状の人が、検査で陽性になったからという理由で、個々の仕事や学業などの事情を無視してホテルなり自宅なりに閉じ込められたら、たとえ2週間でもつらいだろう。しかし、こういう世界的な危機にあっては、有事の対応が必要であり、国民の合意が得られるはずだ。

安倍政権がピシッとした新型コロナ対策を打てない理由はそれだけではない。一部の医学専門家が唱える新型コロナ楽観論が、政財界に少なからず影響を及ぼしている。

京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授、吉備国際大学の高橋淳教授らの研究グループは「日本人はすでに新型コロナウイルスの集団免疫を獲得している」と、英・ケンブリッジ大学出版局の公開研究サイトへ投稿した。

同グループは新型コロナを、最初に武漢で発生した弱毒性のS型と、それが変異したK型、K型が毒性を増したG型に分類する。

日本政府は武漢など湖北省からの入国を1月31日にストップしたが、中国全土を制限対象にしたのは3月9日と遅れたため、S型とK型が国内に流入し、風邪やインフルエンザに紛れて、知らないうちに多くの日本人が感染した。しかし、幸運にもこれでK型の集団免疫ができたため、その後に、肺炎を起こすG型が入ってきても対応でき、死亡者は欧米よりはるかに少なくて済んだ。一方、欧米は日本より1か月以上早く中国からの入国を制限したのでK型が流入せず、日本のようにG型にも応戦できる集団免疫ができなかったのだという。

国際医療福祉大学の高橋泰教授も、すでに多くの日本人が新型コロナに感染していると指摘する。ただし、上久保グループが、「T細胞」が活性化されたため集団免疫を持ったというのに対し、高橋教授のほうは「自然免疫」でほとんどの人が治ったという分析だ。

こうした視点からは、当然、PCR検査不要論が出てくる。高橋教授は言う。

「PCR検査でどこから見ても元気な人を捕捉することには大きな問題があると考えている。PCR検査はコロナウイルスの遺伝子を探すものなので、体内に入って自然免疫で叩かれてしまい他の人にうつす危険性のないウイルスの死骸でも、陽性になってしまう」(7月17日東洋経済オンライン)

集団免疫が日本人にはすでにできているのなら、そう心配することはない。原初的な自然免疫でこと足りるとしたら、けっこうなことではある。ちょっとした風邪のようなものだとか、インフルエンザの死者数が多いほうが問題だとか、テレビはコロナ危機をあおりすぎだとかいう論調は、こういうところから出てくるのだろう。

しかし、急増した感染者のなかから重症化する人が出てくるのはこれからである。いったん重症化し人工呼吸器やECMOにつながれるようなことになれば、命拾いしたとしても、リハビリを含め、社会復帰に半年近くもかかるのだ。気楽にかまえていられるものだろうか。少なくとも、検査など不要という考えには賛成しかねる。

諸説紛々で、安倍官邸は混乱の極みなのかもしれないが、早く基本に立ち戻ることが肝要だ。未解明のウイルスで、分からないことのほうが多い。それなら、楽観論より悲観論をとって、もっとも効果的な感染症対策である検査の徹底をはかるべきではないか。ベトナムは初期段階から検査、隔離、追跡を徹底し、死亡者ゼロに抑え込んでいる。成功例を見習うべきだ。

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