新型コロナ「楽観論」に殺される国民。官邸の誤魔化しと思いつき

arata20200730
 

新型コロナウイルスの感染者数が爆発的に増加し国民の間で不安が高まっていますが、「局面はこれまでと変わらず」という姿勢を崩さず、「GoToトラベルキャンペーン」についても従来のまま進める意向の安倍政権。なぜ官邸は効果的な新型コロナ対策を打てないでいるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、考えうる2つの理由を記すとともに、政策決定のプロセスが見えない政権を批判しています。

新型コロナ楽観論をどう評価すべきか

三井住友フィナンシャルグループのシンクタンク「日本総研」が7月13日に出したレポートで、「政府が三つのメッセージを発信することが必要」として、以下の三点をあげている。

  1. 若年・壮年者にとって新型コロナは脅威でない
  2. 感染者が増えるのは心配ない
  3. 日常生活を取り戻そう

東京から全国に急速に広がる新型コロナ感染。連日、テレビ番組でそれについて、侃侃諤諤の談議が交わされているのを断ち切らんとするかのごときメッセージである。

若年・壮年層はいくら感染拡大しても、無症状・軽症が多いのだから、感染者数の増加に惑わされることなく、安心して以前の日常生活に戻るよう政府は呼びかけるべき、というのだ。

たしかに、第2波感染の中心がこれまで若年・壮年層だったため、今のところ死者数に関しては抑えられている。全国の感染者数が7月1日の127人から、7月28日の981人にも跳ね上がったわりには、死者数は7月1日が2人で、その後も0~3人の間で推移している。5月2日には31人だったことを考えると、そこは冷静に見ておく必要があろう。

しかし、「三つのメッセージ」提案からもうかがえるように、高齢者にとっては依然として、新型コロナが脅威であることに変わりはない。

そして、日常生活を取り戻すにしたがって、若年・壮年者と高齢者の接触機会も増え、今後は重症者の急増が予測される。

そうした視点の欠けた日本総研のメッセージ提案には説得力がなく、政府もそのまま採用するわけにはいかないだろう。

それでも、日本総研レポートのような考えは経済界のみならず、政官界にもかなり蔓延していて、感染防止と逆行する「Go Toトラベル」を後押ししているように見える。二階幹事長や菅官房長官が、関係の深い観光業界に気配りしたのは確かだろうが、それだけではあるまい。

7月10日、安倍首相はこう断言した。「重症者は大きく減っており、感染者の多くは20代、30代で、医療提供体制はひっ迫した状況ではない」。

政府の基本姿勢が凝縮された発言だが、医療現場の認識とはかなり開きがあるようだ。7月22日に開かれた東京都のモニタリング会議で、杏林大病院の山口芳裕・高度救命救急センター長はこう述べた。

「国のリーダーが使われている『東京の医療はひっ迫していない』は誤りです。病床拡大にはレイアウトを変えたり、医療者のシフトを変えたり、感染対策を徹底したり、入院患者を移動させたり、大変な作業です。2週間先をみて現状の評価をするのが責任ある態度だと思う。150%の増加率で患者が増加し、重症者が倍増している状況です。現場の労苦に想像力も持たない方に、大丈夫だから皆さん遊びましょう、旅しましょうという根拠に使われないことを切に願います」

すでに東京の医療はひっ迫している。現状のレベル1(1,000床)のベッド数では間に合わなくなったため、中等症でレベル2(2,700床)、重症はレベル1(100床)を確保できるよう急いでいる状況だ。国のリーダーは想像を働かせよという言葉から、じれったい思いがひしと伝わってくる。

中高年層にジワジワ感染が広がっているのは不気味だ。6月19日の専門家会議資料によると、年代別重症化率は

  • 未成年:0.3%
  • 20~59歳:4.4%
  • 60歳以上14.9%

だ。東京都の重症者数は7月12日に5人だったが、28日には21人に増えた。このまま高齢層に広がっていくと、たちまち100床では足りなくなるだろう。

こんなさなかにも、安倍政権が「Go Toトラベル」などの経済政策を優先させるのは、経済の数字を少しでも引き上げたいからだ。

第2次安倍政権が発足した12年12月から景気拡大局面が続いていると喧伝していたアベノミクス物語が実はデタラメで、18年10月を境に下降してきたという事実を近々、認めざるを得なくなっている。

野党が共闘体制づくりにもたついている間に、隙あらば、解散、総選挙に打って出たい。そのためには、急激に落ち込んだ経済を、たとえ一瞬でも上向いたように見せるのが肝心だ。「みなさん、新型コロナの流行で日本経済は大きな打撃を受けましたが、安倍政権でなければ再生できません。その証拠に、すでに景気回復の兆しが数字に表れております」などと、ごまかすのだ。

総選挙で勝利が転がり込めば、安倍首相をめぐる数々の疑惑をそっちのけにして、「国民は信任してくれた」と吹聴するだろう。そしてレームダック化を防ぎ、ポスト安倍にまで影響力を及ぼす皮算用だ。

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