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日本電産の永守会長が賃金カットを好むワケ。だから日本人は頑張れる!

名だたる日本の大企業が次々と深刻な不振に陥る中、永守重信氏率いる日本電産がコロナ禍でも黒字を確保するなど、好調な業績を上げています。何が他の企業との明暗を分けたのでしょうか。今回の無料メルマガ『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!』では著者でコンサルタントの児島康孝さんが、「リストラ」と「賃金カット」をキーワードにその原因を分析するとともに、「永守流経営」こそが日本の現状にマッチしている理由を解説しています。

日本企業は、日本電産「永守流経営」で蘇る!

日経ビジネスは、ときどき新聞報道を上回る特ダネを掲載することがあり、新聞社やテレビの経済記者も一目置いています。たまに、日経新聞より日経ビジネスが早いことも、あるぐらいです。

きょうちょっと見かけたのですが、「減収でも増益の日本電産コロナ禍に立ち向かう永守流コスト改革」(日経ビジネス7月22日)。この日経ビジネスの記事で、リーマンショックやコロナウイルスに対して、日本電産の永守会長がどのように指示を出して、難局を乗り切り、また乗り切ろうとしているのか、分析しています。

中身は、日経ビジネスをお読みいただくとしまして、このメルマガでは、なぜこういうことが可能になっているのか、その前提についてです。

日本企業は、リストラより賃金カットを

日本電産が、なぜ難局にも強いのか、これは、安易に解雇・リストラをしないからです。

リストラで、明日にも人員削減の対象になるかもしれない、このような状況では、とても会社の先行きどころでは、ありませんよね。つまり、無理な人員削減をしないという安心感があるからこそ、業務改革に専念できるのです。もし、リストラをしながら「永守流経営」をしようとしても、誰もついて来ないでしょう。

多くの日本企業が、安易な経営判断のリストラでボロボロになり、技術が中国や韓国企業に流出してしまった理由です。

日本企業は、人員削減ではなくて、苦境には、賃金カットを一律実施すべきであったのです。

欧米と異なる、雇用慣行

欧米のようなリストラは、その前提条件として、同じ業界の一般職で「水平転職」が可能であり、しかも、履歴書に写真も貼らないで良いほど、雇用の機会が均等であるということが必要です。アメリカでは、採用時に年齢も問いませんから、若い人かと思ったらすごく年配の人だった、と人事担当者が、驚くこともあるほどです。

ですから、日本のような新卒採用優先の社会では、まだアメリカ型のリストラは向いていません。これを、日本で無理やりやったので、企業内では技術や人材の流出、社会では膨大な低所得者、貧困層の出現を引き起こしました。

極端な話、日本電産の社員であっても、もし景気悪化の際に日本の労働市場に放り出されたら、正当な評価、労働力の「マーケットメイク」はなされない可能性が高いです。これが、先進国の中でも、特に壮絶な日本のデフレのおもな原因というわけです。

つまり、一度日本の企業を離れたら、二度と中流以上の階層には戻れないという、実にいびつな社会です。

もっとも、アナリストやファンドマネージャーは例外的で、他の外資や、シンクタンクに移っている人も、日本でも多いですね。こういう人達が、雇用や社会の分析をしますから、何が日本で起きているのかよくわかっていないのです。

ですから、永守会長の日本電産のような、人員削減はしないで、賃金カットはするけど、みんなで知恵を絞って頑張ろうという仕組みが、日本では危機の際に、強みを発揮するわけです。

私が詳しいテレビ業界では、日本テレビが、かつて賃金カットで乗り切りました。看板アナウンサーが何人か辞めたりしましたが、業績が戻れば、賃金を戻すのは容易です。そして業績が戻ると、外部スタッフの区別なく、従業員食堂の無料開放などを実施しました。

こうしてみますと、リストラ、人員削減や採用と、賃金の上下の調整と、どちらが簡単で、ショックが少ないかと言うと、やはり、賃金の上下です。どんな世界でも、ノウハウや技術は一朝一夕には確立できないからです。

こういう背景もあってか、フリーのテレビ関係者も、フジテレビよりも日テレを信頼して、良い企画は日テレに、一番に持っていったようです(いい時だけのフジテレビと、長年業界で言われていた)。こうして、当初はカネがあったフジテレビは、徐々に力が落ちてゆき、日テレが伸びることになりました。

ですから永守会長の経営は、今の時点では日本の現状に、マッチしています。

もっとも、すべての職種、労働力に対して、プロ野球のドラフト、トレードや、あるいは、オークションや株式市場のように、「マーケットメイク」がなされるような未来が来れば、状況は変わってくるでしょう。

image by: Abhisit Vejjajiva / CC BY

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1988年神戸大学卒。独立UHF局、TBS系、FNN系などで報道記者、カメラマン。 ニューヨーク金融情報、FRB・ECBなど中央銀行の動きをウォツチ。 最新経済情報や、欧米勢力の動きを伝え、まぐまぐマネーボイスにも寄稿中。

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【著者】 児島康孝 【発行周期】 ほぼ 日刊

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