自衛隊は大丈夫か?旧帝国海軍が「ハンコ文化」で逃した石油資源の話

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菅政権が最初にメスを入れるのは、河野太郎行政改革担当大臣が強い意思を示した「行政手続きにおけるハンコの不使用」となりそうです。ハンコがあるための非効率さは長年指摘されてきたところで、コロナ禍というかつてない追い風により、とうとうハンコの灯火も消えようとしています。軍事アナリストの小川和久さんは今回、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、自身の母が戦前に帝国海軍との間で経験した「ハンコ」も絡んだ逸話を紹介。まずは、緊急事態にハンコなど回していられない防衛省、自衛隊からハンコをなくそうと提案しています。

ハンコを押していて戦えるか

河野太郎行政改革担当大臣の登場で、お役所や会社の書類からハンコが姿を消しそうです。

「河野太郎行政改革・規制改革相は25日の記者会見で、全府省に行政手続きでハンコを使用しないよう求めた。『ハンコを押せとルールで決まっているとオンライン化できない。行政のデジタル化は喫緊の課題で、それを妨げる規制は私のところで取り外す』と述べた」(9月25日付日本経済新聞)

ハンコは日本の文化としても定着している訳ですから、行政やビジネスの効率化の場面で使われなくなるとしても、同時にもっともっと花開く展開はないのかと思ってしまいます。

ここでは、戦前の陸海軍で多用されていたハンコが日本の命運を左右したかもしれないエピソードの一端をご紹介しておきたいと思います。

昭和12年頃の話ですが、ユダヤ人の双子の兄弟が上海から東京経由でニューヨークに出国しました。オーストリアかハンガリー方面からナチスドイツの迫害を逃れてきたのです。実業家だった私の母が面倒を見ていたオーストリアの総領事(日本に大使館を置いていなかったので事実上の大使)がユダヤ系で、前に上海の総領事を務めていたこともあり、その縁を頼って東京経由となった訳です。

双子の兄弟はめでたくニューヨークに到着し、ユダヤ人排斥気運が強かった米国に入国することができました。私の母とオーストリアの総領事にとっては思いがけないことでしたが、しばらくして「お礼がしたい。ついては石油の極東での販売権を進呈したい」との申し出があり、やがて「見本」として1隻のタンカーが送られてきました。

愛国者だった母は、関係が深かった帝国海軍に使ってもらおうと提案し、海軍側も喜んで申し出を受け入れました。そこまではよかった。ところが、海軍省内で稟議書が回され、例の如く1件の書類に30個ものハンコが押され、時間が経過していく中で、皮肉な出来事が起きました。ユダヤ人の兄弟を迫害した側の駐日ドイツ大使が、そのタンカーの石油を買ってしまい、ドイツ本国に向かわせてしまったのです。

まだ米独関係が緊迫していない段階でしたから、そんなことも起きてしまったのですが、母は激怒し、日本の政府と軍部の無能ぶりを公然と罵るようになりました。それから終戦までの間、母の周りには常に8~9人の憲兵の目が光り、幸い拘束されることはなかったものの、忘れられない不愉快な思い出となりました。

言うまでもないことですが、行政やビジネスは世界に通用するスピードが必要です。それが効率化ということでもあります。自分の母のことを思い出しながら、河野大臣の手腕の行方を見守っているところです。

まず、防衛省と自衛隊はハンコをなくしてみよう。ハンコを押していて戦えるか、考えてみよう。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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