菅新総理が掲げる目玉政策の1つ「携帯電話料金の値下げ」が、携帯業界に大きな波紋を拡げています。中でも驚きだったのが、NTTによる「NTTドコモ完全子会社化」のニュースです。 果たして、この「完全子会社化」は英断だったと言えるのでしょうか? ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、この再編を「準国有化」と表現し、値下げ競争の加速を予測。さらに、携帯大手3社の値下げによって楽天モバイルや格安スマホの存在価値がなくなることを危惧しています。
NTTによるNTTドコモ完全子会社化の衝撃━━年内にも値下げ?国内の通信業界再編は必至か
ここ数年でもトップクラスのニュースであった「NTTによるNTTドコモ完全子会社化」。先々週の日経電子版「モバイルの達人」で「菅総理が本気で料金値下げを実現したいのなら再国有化しかない」と書いたのだが、まさか現実になるとは驚いた。
ただ、ここ数年、総務省があれこれと競争政策を導入してきたものの、成果はさっぱりであり、すでに手を尽くした感はある。菅総理が値下げに関して、早急な回答を求めているようだが、総務省が新たに競争政策を仕掛けたところで何も変わるわけもなく、最終手段である「準国有化」によって、一気に値下げ料金競争が加速しそうだ。
最も現実的なのは12月1日、NTTドコモ・井伊基之氏が新社長に就任した際に華々しく値下げを発表するパターンだ。メインブランドであるNTTドコモで、何千円も値下げをすれば収益に与える影響は甚大で、それこそ「収益で3番手」を脱却できなくなることを考えると、サブブランドを作るのが現実的と言えそうだ。サブブランドで20GB・3~4000円という値付けができれば、総務省の内外価格差調査でも欧州に対抗できる料金となり、菅総理も納得ではないか。
KDDIやソフトバンクこそ、NTTドコモにサブブランドを作って欲しいのではないか。メインブランドで値下げとなれば、対抗値下げをせざるを得なくなる。そうなれば収益への影響は避けて通れない。しかし、サブブランドであれば、すでに2980円という料金プランがあるので、ここで対抗すればいい。
ただ、キャリアのサブブランドでの戦いとなれば、格安スマホや楽天モバイルの存在価値がなくなる危険がある。
3~4000円でNTTドコモのサポートやネットワーク品質を享受できるのであれば、わざわざ格安スマホや楽天モバイルを選ぶ人がいるだろうか。
今回の件は公正取引委員会も承認するような発言をしているので、このまま何も問題なく完全子会社化が成立しそうだ。
総務省としては、本当にこのままでいいと思っているのか。
NTTドコモの強制的な値下げによって、KDDIやソフトバンクは対抗できる体力はあるかもしれないが、格安スマホや楽天モバイルにとっては相当、厳しいことになるだろう。
これまで料金競争を作ってきた事業者が撤退ということになれば、最終的には3つのキャリアしか残らないということもあり得る。
果たして、これが本当に健全な競争と言えるのか。菅総理の値下げ要請は、日本の通信業界を破綻に追い込む危険性を帯びているように感じる。
3キャリアも収益が落ちれば、研究開発費が削られ、5Gや6Gでますます世界から取り残されるはずだ。
10年後、「こんなはずじゃなかった」と後悔する日が来そうで、今からとても心配だ。