金正恩のしたたかな役者ぶり。朝鮮労働党創建75年での涙と笑顔の狙い

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10月10日、朝鮮労働党創建75年を祝う軍事パレードで演説した金正恩朝鮮労働党委員長が、生活苦に耐える人民に対し涙を見せ、日本でもワイドショーが取り上げることになりました。これを「本心からの涙」と説明した評論家に異を唱えるのは、メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんです。宮塚さんは、米トランプ大統領との会談以降初となるICBM披露に満面の笑みを見せるなど、金正恩氏の強かな役者ぶりを論じています。

父親譲りのなかなか強かな役者「金正恩」が見せた涙の演劇

北朝鮮の最高権力者である金正恩朝鮮労働党委員長は「なかなか強かな役者」のようだ。「鬼の目にも涙」という諺があるが、この独裁者はよりによって朝鮮労働党創建75年記念日の10月10日の晴れの舞台で「人民の信頼に報えず、面目ない」とし、「自らの努力が不足し、人民が生活上の困難から抜け出せずにいる」と涙ながらに述べたのである。金正恩委員長の父親である金正日総書記は「映画芸術論」を説くほどの人物であったからその影響を受けたのか、「人民に懺悔の涙」を見せたのである。

2日後の朝のテレビのワイドショーでこの涙姿が話題となり、司会者が2人のお馴染みの朝鮮問題評論家氏に「金正恩の涙は本心から流した涙ですか?」というようなことを質問したが、これに対し2人とも「あの涙は本心から出たもの」と答えていたのには驚いた。

金正恩は前号でも書いたが、韓国の公務員を洋上で射殺し、しかも燃料で焼き殺しまでしでかしたことに、韓国側に「テダニ ミアナムニダ(大変申し訳ない。すんません)」と謝罪したことで話題となったが、はたして金正恩が心底から“国民に謝罪の涙を流すだろうか”。

金正恩は「敵はコロナや制裁、災害だ」というメッセージを込めて指導者自ら困難を吐露することによって、国民との一体感を演出し、責任を回避することに成功させた“涙の演劇”であった。「鬼の目にも涙」を目の当たりにした人民もこれまた歓喜の涙を流していたが、彼らは平壌に居住できる北朝鮮人民の中ではエリート階層であるので、この最高権力者の涙の演説に呼応するのは当たり前だが、多くの人民はこの涙の演説を無味乾燥なものと聞いていたのではないだろうか。

しかも、軍事パレードでは新型と見られる大型移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)を公開したが、このときの金正恩は満面に笑みを見せていた。金正恩はトランプ大統領との約束が「核・ミサイル開発を思いとどまらせるブレーキにはならなかった」ことを見せしめたが、これにより、トランプ大統領と金正恩の親交の厚さが、いかに薄氷のものであったことを世間は悟ったのである。金正恩は、なかなか強かな役者であると、私が認識する金正恩像である。

北朝鮮は菅義偉首相が北朝鮮側に無条件での交渉を求めたのに対し、機先を制し「拉致問題は完全無欠に解決した」として交渉再開を一蹴した。北朝鮮は菅政権も「安倍の真似をして拉致問題に未練を持ち周囲に働きかけている」と非難し、「われわれに手出しするなら看過できない」と恫喝する有様である。

ノーベル平和賞は国連の「WFP(世界食糧計画)」が受賞したが、北朝鮮はこのWFPの「長年のお得意さん」であるが、日本もまたこのWFPの最大の援助国でもある。例年ならば北朝鮮の各協同農場から「豊年を知らせる生産分配の行事」が華々しく伝えられる時期であるが、それも昔の風物詩となった昨今、北朝鮮はWFPに食糧支援を求めるであろうが、ゆめゆめ日本の剰余米(備蓄米・放出米)に食指を出ささせてはいけない。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

image by:Alexander Khitrov / Shutterstock.com

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