トランプよりもよほど危険。バイデン政権が中国と軍事衝突する日

 

エチオピアにおける隠れた米中対立も表出か

その対ロ感情ゆえに、現在、プーチン大統領が一応は小康状態に持ち込んだナゴルノカラバフ地域の紛争と停戦合意に対して、あえて火中の栗を拾うことはしないと思われますが、もしかしたら、アメリカの中央アジア地域でのプレゼンスを高める(恐らく“回復する”という表現を用いるでしょうが)ために、トランプ政権が避けてきたアクティブなコミットメントに転換するかもしれません。

それがアメリカ外交としての方針であり、政権自らが主導するのであればいいのですが、本件ではアメリカはOSCE(欧州安全保障機構)の主要メンバーであり、ナゴルノカラバフ地域の案件については、欧州(特にフランス)とロシアとのトロイカ体制での関与になっていますので、マクロン大統領やプーチン大統領に乗せられて、不必要な負担を背負わされるように仕向けられる可能性も否定できません。

実際には、アメリカには特段の直接的な権益はない地域と言えますが、仮にトランプ政権の消極性への対峙という観点でアクティブコミットメントに転換してしまったら、オバマ政権以降進めてきた“アメリカの対外コミットメントの縮小”という流れに反し、アメリカは再度、世界の問題に首を突っ込み、泥沼にはまっていくようになる恐れも感じます。

仮にそうだとしたら、以前と大きく違うのは中国の“実力”であり、対外コミットメントが拡大するようなことがあれば、米中対立の衝突点が、トランプ政権時よりも広がる可能性が高いと言えます。

イントロダクションで触れたエチオピアにおける隠れた米中対立も表出することになります。

エチオピアは、一帯一路政策の恩恵を思いきり受けており、経済はもちろん、外交安全保障面でも対中傾倒が強まる一方で、各ドナー国とのバランスを取りたいと願って中国べったりの依存体制を改めようとしたのが現首相のアビー氏ですが、対中累積債務の拡大やインフラ事業での否定できない中国のプレゼンス、そしてCOVID-19の感染拡大に際して中国が手を差し伸べたという点からも、実際には中国への傾倒は大きくなるばかりです。

また今回、エチオピア北部のディグレ州で勃発したTPLFとの武力衝突を受け、国際的なサポートを得るために、中国との関係が強まってきました。

ちなみにこのエチオピアとその周辺国(ジブチ、スーダンなど)での中国の影響力の拡大はアメリカの外交・安全保障政策上、由々しき問題であると認識されています。

その理由は、表立って語られることは決してありませんが、アメリカのGlobal War on Terrorismにおいて、北アフリカ地域と中東アラビア半島におけるテロリスト認定組織の動きを逐次追跡し、かつ工作活動を指揮するCIAのBlack Siteがエチオピアに置かれています。

中国が隣国ジブチの軍港の権利を取得したことも、アメリカにとっては大きな問題と認識されています。それに対抗するために、先日、イスラエルを使ってスーダンを対イラン・トルコ包囲網に招き入れ、テロ認定国から除外することで、アメリカおよびイスラエルからの支援を受けることが出来るようにセッティングしましたが、実際には、これはエチオピア周辺における対中国包囲網の一環と見ることもできます。

イスラエルを含む中東諸国は、実際には中国とも近く、イランでさえも親中国という事実から、スーダンの巻き込みがどれほどの効果があるのかは不明ですが、対テロ戦争の戦略拠点としてのエチオピアをアメリカサイドにキープしておくためには、今回の内戦に対しても、新政権は何等かのコミットメントをしなくてはならないと考えるのではないかと見ています。エチオピアとエリトリアの緊張緩和や、スーダンと南スーダンの問題などに関わってきた身としては、この地域の安定が崩される可能性を感じて、懸念を強くしています。エチオピア問題がバイデン氏とその周辺、特に外交担当の頭にどれほど存在するかは未知数ですが、注意喚起はしておきたいと思います。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • トランプよりもよほど危険。バイデン政権が中国と軍事衝突する日
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け