多摩川を車で渡る、それだけで楽しそうなキミ。俺に惚れてる?実は…

 

それである日改めて聞いてみた。「この橋を渡るのがそんなに楽しいの?」「いえ、この橋と言うより、県境を越えるのが楽しいんです。北海道では簡単に県境は越えられないから…」彼女はやっぱりいつもとは違うテンションでそう答えた。

確かにそうである。北海道は一島にして一道。道の境界を越えるには、飛行機で空を行くか、鉄道で海底を行くか、フェリーで海上を行くしかない。つまり結構な大ごとなのである。それを日常的に車で簡単にできるということが非日常的で楽しいという訳である。彼女が都内ではなく横浜に部屋を借りたのも毎日県境を越えて出勤したかったからであった。車でよりテンションが上がるのは、たぶん通勤電車よりもパーソナルな空間だからであろう。

そこで彼女に聞いてみた。「じゃあ、自転車や徒歩で越えるともっと楽しいんじゃない?」「ああッ!」いつもより一際大きな声でそう言った時の彼女の表情は、それはもう楽しげであった。

私も地理や歴史でいうところの北海道はそれなりに知っているつもりである。しかしその土地で生活する人の心のあり方までをも研究射程に入れることができる人文地理ともなれば少なくともその射程距離分は奥深いものとなるのは当然である。自分はまだまだこの国に住む人のことを人文地理的に何も知らない。そう思うに十分な出来事であった。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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