AI導入がトドメ。大卒者の半数が定職に就けない時代がやってくる

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AIが私たち人間から大量の職を奪い貧富の差を拡大させることは、間違いのない事実のようです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で「Windows 95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが、これから15年の間に50%近くの職がAIによって奪われるという経済学者の発言を極めて現実的とした上で、「急がれるべきは貧富の差の解決策の発見」と記しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

AIは人から職を奪うのか?

先日、PBSの「In the Age of AI」というドキュメンタリー番組を見ました。特に新しい情報を仕入れたわけではありませんが、バックグラウンドの情報などが良くまとまっているので、見る価値はある番組です。Youtubeで無料で公開されているので、日本からも見る事が出来ると思います。

ここ数年、「AIは人から職を奪うのか?」というトピックはさまざまなところで取り上げられます。「専門家」と呼ばれる人たちの多くが、「奪われる職もあるけど、新しく生まれる職もある」と言ってAIを擁護するため、分かりにくい部分もありますが、ほとんどが(AIのイメージを悪くしたくない)ポジショントークだと考えて良いと思います。

結論から先に言えば、AIは人から職を奪います。それも大量に。産業革命が多くの労働者から職を奪ったように、AIは、さまざまな産業で、これまで人手でしか出来なかったことを、機械化・自動化することを可能にします。それも、人間に任せるよりも、はるかに安く、安全に、正確に行うようになるのです。

ただし、AIだけに焦点を当てるのは間違っています。これは、80年代の後半から始まった、第三次産業革命とも呼べる、コンピューターとインターネットを活用したデジタル・情報革命という大きな流れで捉えるべき事象なのです。

80年代後半と言えば、日本の不動産バブルの頂点で、それ以降、日本は失われた20年(もしくは30年)と呼ばれる低成長期に入りました。米国は逆に、GAFAに代表されるグローバルIT企業を生み出しましたが、その中核にあるのが、デジタル・情報革命なのです。

この30年間、米国は労働者一人当たりの生産性を大きく上昇させましたが、これは主にコンピューターやインターネットを活用することにより達成しました。テクノロジーの導入により、より多くの仕事が自動化できれば、少ない人数でより多くの売り上げを上げることが出来ます。生産性の向上とは、まさにこの話なのです。

この時期にも、コンピューターやインターネットは多くの職を人から奪いましたが、幸いなことに同時に経済全体も成長したため、失業者を増やすこともなく、あまり大きな問題にはならなかったのです。

しかし、実際には情報革命により中間層の仕事が奪われ、彼らが最低賃金のサービス業で働くしかなくなった結果、テクノロジーを上手に使いこなして生産性を上げた側の人々に富が集中し、貧富の差が大きく開く、という現象が米国では起こりました。

一方、日本では、ほとんど生産性の向上が見られませんでしたが、その背景には日本の「正社員を解雇しにくい」という雇用規制があります。テクノロジーの導入によって業務を効率化しても、人を解雇することが出来なければ、コスト削減(=生産性の向上)に繋がらないからです。

つまり、日本の雇用規制が、生産性の向上を阻害し、結果として日本企業の国際競争力を奪った、という面があることは否定出来ないのです。

そんな中で苦肉の策として行われたのが、小泉政権による派遣法の変更です。小泉政権は、それまで禁止だった製造業および医療業務への派遣の解禁や派遣期間の延長などを行いましたが、この規制緩和は、「正社員は解雇できない」という解雇規制に縛られている企業に、必要に応じて解雇できる派遣社員という道具を与えるために行われたのです。

これにより日本には、解雇される心配のない正社員と、そうでない派遣社員という階層構造が社会に作られてしまったのです。米国とは少し違う形ですが、貧富の差を広げることになりました。

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