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支持率急落の自業自得。感染拡げた菅政権がGoToする自滅への道

12月10日には東京の新規感染者数が初めて600人を超えるなど、拡大の一途を辿る新型コロナウイルスによる感染症。その原因の1つとして疑われるGoToトラベルですが、菅首相は頑ななまでに継続する姿勢を崩しません。大阪府や旭川市には自衛隊看護官が派遣されるなど、医療体制が逼迫する中での政権の選択は正しいものと言えるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、キャンペーンを全国一律で一時ストップすべしとしてその理由を記すとともに、「現実を直視しない政権を待つのは自滅の道」との厳しい見方を示しています。

道理に合わない菅首相の「GoTo」政策は自滅への道

菅内閣の支持率が急降下している。そりゃそうだろう。日本学術会議の任命拒否をほったらかしでいいのか。「桜を見る会」の虚偽答弁について安倍前首相から国会で説明を聞かなくていいのか。

山積する問題を置き去りにして臨時国会を閉じ、肝心の新型コロナ対策ときたら、整合性、一貫性などまるでない。

アベ・スガ政権が今までやってきたことを総合的、俯瞰的にみると、惨憺たる状況が浮かび上がる。

冬場の感染拡大が想定されたにもかかわらず、医療体制の整備や、PCR検査などの拡充に十分な政策をほどこさず、逆に「GoTo」キャンペーンで人の大移動を促した。その結果、夏の第二波を抑えきることに失敗、無症状感染者のなかにウイルスが隠れて生き残り、現在の危機的な第三波の感染拡大をもたらしている。

この厳然たる相関関係を菅首相は認めず「GoToトラベルを原因とする感染はごくわずかだ」と、さしたる根拠のない数字をあげてうそぶくばかり。

9月16日の就任以来、はじめて開いた12月4日の記者会見でさえ、菅首相は政策宣伝文を一方的に読み上げるだけで、記者の質問の意味を汲んで答えようとしない。まことに無味乾燥な朗読会にしてしまった。

記者 「GoToトラベル事業の継続に対してリスクを指摘する声が挙がっています。今後、政府がより主体的に関わるよう、意思決定のプロセスを見直す考えはありませんか」

 

菅首相 「各都道府県知事の意見を伺いながら国が最終的に判断するようになっています。今回も、11月21日にコロナ対策本部でGoToトラベルの運用見直しを決定して、その後に札幌市、大阪市において到着分を対象外とした対応をいたしました。また、27日からは出発分についても控えていただくよう呼び掛けました。また、東京都知事からの要請を受け、東京の到着、出発、両方について、高齢者や基礎疾患をお持ちの方は御利用を控えていただきたいとの呼び掛けを行ったところです」

記者は「政府が主導してGoToトラベルの継続または一時停止の意思決定をするよう見直す考えはないか」と聞いているのに、菅首相はそこに一切ふれず、現在やっていることを広報しただけなのである。

国の最高権力者が語る。何かニュースになる話が飛び出すかもしれない。本来なら、総理記者会見たるもの、そういう期待感を抱かせてしかるべきである。しかし、こと菅首相に関しては、官僚の作文を棒読みするイメージしか湧かない。

安倍政権下で他国に後れをとったデジタル化や携帯料金値下げ、カーボンニュートラル宣言を、いかにも独自策であるかのごとく言いつのってはいるが、そんなに威張れる中身なのだろうか。

経済立て直しのためにも、今なにより優先すべきは新型コロナ対策であることは言うまでもない。

ところが、「GoTo」効果で、お上認定の気のゆるみが大波となって列島に広がってしまった。

府知事と市長が都構想の住民投票にかまけていた大阪などは、すでに医療崩壊状態といっていい。コロナ重症患者用のベッドがほぼ満床で、医療スタッフが不足し、一般重症患者の救急受け入れもままならないという。

たまらず「赤信号」をともした大阪府の対応について、「残念ながら、赤信号が点灯するのは遅すぎたと言わざるを得ない」(朝日新聞より)と茂松茂人・大阪府医師会会長が憤慨するのも、もっともだ。

京大の山中伸弥教授は米国での拠点を置くカリフォルニア州と大阪を比較し、8月から「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」サイトで警鐘を鳴らしていた。

カリフォルニア州は人口約3,700万人ですが、これまでに50万人以上が新型コロナウイルスに感染しています。カリフォルニア州は科学的データに基づいた対ウイルス政策をとっています。過去2週間の人口10万人当たりの新規感染者数が100名以上もしくは過去2週間の人口10万人当たりの新規感染者数が25以上で、かつ過去1週間のPCR検査の陽性率が8%以上を満たしたCounty(郡)では、厳しい経済行動制限をとっています。大阪府は過去2週間の人口10万人当たりの感染者数28.92名、過去1週間の検査陽性率9.3%と基準を上回っています。

大阪は感染者が世界一多いアメリカのモニタリング基準を上回る深刻な状況だと山中教授は指摘し、「現在の限定的な対策で乗り切ることができるのか心配です」と、政府や大阪府の姿勢に疑念を呈した。

この記事が投稿されたのは8月13日。このころ日本はといえば、しっかり「GoToトラベル」を進めていたのである。

もともとこのキャンペーンはコロナ感染がおさまったあとの景気対策として浮上したもので、当初は8月中旬のスタートを予定していたが、当時の菅官房長官は、全国旅行業協会会長でもある二階幹事長とはかって開始日を7月22日に前倒しさせ、旅に出よう、食事に行こうと旗を振ってきたのだ。

もとより、急激に落ち込んだ経済の立て直しに躍起となる気持ちは誰もが共有するところだ。ただ、キャンペーンのタイミングがあまりにも悪い。

まず政府は全力をあげて、広汎な検査体制を拡充し、隠れた感染者の連鎖をできる限り広げないようにすべきであった。それと同時に、爆発的流行の恐れがある冬場にそなえて、第一波、第二波で疲弊しきった医療現場の再構築に最大限の予算を投入すべきだった。

そうした備えのないまま発せられた「GoTo」が、どのような結果をもたらすのか、優秀な官僚にわからぬはずがない。菅首相に反対意見を具申しようものなら左遷の恐れがあるため、固く口を閉ざすのだ。

一時的に、大手旅行代理店や高級ホテル、その関連業界が潤っても、人々の大移動によって、さらに収束が見通せなくなった。

旭川の病院クラスターの惨状は言うに及ばず、全国各地で、医療機関が悲鳴をあげている。いま無理して「GoTo」を継続して、経済にプラスに働くとは思えない。

冬はこの先まだ長い。これまで政権に遠慮がちだった医療専門家の声がここへきて厳しさを増し、「GoToトラベルを一時停止すべきだ」との声が高まっている。

限界ぎりぎりで仕事を続けている医療現場のスタッフは誰しも「政府は何をやってるんだ」と叫びたい気分に違いない。今はハンマーを強く打ちおろして、緩んだ人々の気を引き締め、感染拡大を止めることに傾注すべき時だ。すみやかに「GoTo」を一部ではなく、全国一律で一時ストップするべきだ。

この危機的状況下でも繁華街に繰り出す意欲が旺盛な人々は、マスクさえつけていれば大丈夫と思っているかもしれない。しかし、筆者が街ですれ違う人々のなかには、マスクを顎に下げたり、鼻をむき出しにしている姿が散見される。マスクの使い方についての意識が低い人は意外に多いのだ。人の移動、接触を増やす政策を続けるかぎり、三密を避けるといっても限界がある。

しかし、菅首相の「GoTo」への執着は尋常ではない。最も感染者が多いにもかかわらず東京都はキャンペーンの効果を維持するために外せないということらしく、責任を押しつけあっていた小池都知事と妙な手打ちに及んだ。

「65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人を対象に、都内を発着する旅行の利用自粛を求める」という中途半端な内容だ。

そもそも、リスクの高いそういう人たちは、言われなくても自重するだろう。若者や働き盛りの人はどうぞお出かけ下さい、どんどん来てくださいというのでは、なんにもならない。

「GoToトラベル」は、すでに5,000万人泊をはるかにこえる人々が利用した“民族大移動”事業である。菅首相がそれを感染拡大の大きな要因とはみていないことに疑問を持ったのであろう、東大の研究チームが15~79歳の男女約2万8,000人を対象に8月末から9月末、インターネット上で過去1カ月以内に嗅覚・味覚の異常などコロナ特有の症状があったかどうかを調べた。

すると、トラベル利用者の有症率が利用しなかった人の2倍近く高かったという。むろんこれで「GoTo」がコロナ拡大の主要因と決めつけるわけにはいかないが、一つの参考になるのは確かだ。

菅首相は現実を直視すべきではないか。「GoTo」と感染防止が、並び立つ道理がない。道理のないことをする政権には自滅への道が待っている。

image by: 首相官邸

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