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総務省汚職事件に発展か。疑惑の菅首相長男に忖度するマスコミの及び腰

週刊文春の報道により明らかとなった、菅首相の長男による総務省高級官僚への接待疑惑。監督省庁への忖度が働いているのかテレビ報道は切れ味を欠きますが、この疑惑は今後、どのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、改めて当案件のこれまでの流れや、菅首相の国会での答弁等を紹介。その上で、この疑惑が汚職事件へ発展する可能性を示唆しています。

父の威光をバックに菅正剛氏が接待攻勢

国会で連日取り上げられてきたものといえば、新型コロナ対策、森喜朗氏の女性蔑視発言などの問題だが、もうひとつ、テレビでは通り一遍の報道しかなく、いっこうに目立っていない重大事がある。

菅首相の長男、菅正剛氏がらみの官僚接待疑惑だ。スター・チャンネルなど衛星放送を運営する会社の部長として、放送行政にかかわる総務省の幹部官僚たちを高級料亭などで接待漬けにしてきた。

週刊文春が詳細にわたって報じたのが問題の発端だが、テレビの報道が控えめな気がしてならない。総務省の放送行政にかかわるトップ官僚が当事者ゆえなのだろうか。

菅正剛氏は、菅首相が第一次安倍政権で総務大臣になった2006年、大臣秘書官にとりたてられた。文春の記事を読むと、大学卒業後、バンドマンとしてうだつが上がらず、ぶらぶらしていた長男を菅氏が見かねて秘書にした、というイメージだ。そこのところは多少、執筆者のバイアスがかかっているかもしれない。

ただ、25歳の若造ながら総務大臣の息子で、しかも秘書官という肩書を持つ正剛氏が総務省官僚に一目置かれる存在だったことは間違いないだろう。政治的能力はイマイチだったらしく、2008年、正剛氏は、映画製作や衛星放送事業などをいとなむ東北新社に就職した。

菅首相は国会答弁で「コネ入社でない」と強調している。むろん、大臣秘書官時代に正剛氏が自分で人脈をつくった可能性もなくはない。

文春の記事では、菅義偉氏が正剛氏の将来を案じ、東北新社の創業者にして同郷秋田出身の植村伴次郎氏(故人)に「鞄持ち」として預けたとされている。いささか臭い筋立てだが、当たらずといえども遠からず、か。

それから13年を経た現在、菅正剛氏の東北新社における肩書は表向き、メディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長だが、実際には「総務省幹部らの接待要員」として重宝されているという。

東北新社はグループ売上650億円で、そのうち衛星放送事業は150億円。スター・チャンネル、ファミリー劇場、クラシカ・ジャパンなど多数の専門チャンネルが、3つの子会社により運営されている。

総務省の組織のうち、放送行政を担当しているのが情報流通行政局だ。いま菅内閣で広報官をつとめ、総理会見を取り仕切っている山田真貴子氏の古巣である。

2018年4月6日、東北新社が9割近い株を保有し、正剛氏も取締役をつとめている株式会社「囲碁・将棋チャンネル」が「東経110度CS放送に係る衛星基幹放送の業務」に認定されたさい、情報流通行政局長は山田氏だった。

山田氏は安倍政権下の2013年から15年まで広報担当の首相秘書官を務めたあと、出身官庁である総務省に移ったが、菅首相が内閣発足とともに呼び戻した能吏である。よほど菅首相に気に入られているのだろう。

昨年10月26日放送の「ニュースウオッチ9」に菅首相が生出演したさい、有馬キャスターが日本学術会議の任命拒否問題について質問したのに対し、山田氏がすぐさま反応。NHKの原聖樹政治部長に「総理、怒っていますよ…あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う」などと電話で威嚇したことが一時、有馬キャスターの降板とからめて話題になった。放送行政の元締めだった経歴ゆえの高飛車な行動といえよう。

さて、文春が、お土産やタクシーチケットを渡されている瞬間の写真入りですっぱ抜いたのは、山田氏への接待ではない。名前が挙がった官僚は総務省のナンバー2、谷脇康彦総務審議官をはじめ、前情報流通行政局長の吉田眞人総務審議官▽秋本芳徳・情報流通行政局長▽湯本博信・情報流通行政局官房審議官の4人だ。

彼らに対する接待攻勢は昨年10月7日、12月4日、12月10日、12月14日と続いた。場所は1人4万円は下らない高級料亭、六本木の小料理屋など。正剛氏とともに官僚たちをもてなしたのは、東北新社の二宮清隆社長、子会社である株式会社ザ・シネマの三上義之社長、東北新社メディアサービスの木田由紀夫社長らだ
った。

国会審議で明らかになったのは、彼ら4人の官僚が複数回、接待に応じていたことだ。

「次の事務次官」の呼び声高い谷脇氏は昨年10月7日を含め19年から20年にかけて3回。NHK改革など放送分野で菅首相に重用されてきた吉田氏は昨年12月4日と同年1月24日の2回。秋本氏は16年7月20日、同11月28日、19年2月14日、20年12月10日の4回。湯本氏は19年2月14日、同11月27日、20年12月14日の3回である。

菅正剛氏らは、官僚1人ずつ日を分けて、丁寧な接待をしていたことがわかる。とりわけ接待が集中した昨年12月は、05年末に認定された「スターチャンネル」の、5年に1度の更新時期にあたっていた。

国家公務員倫理規程で、国家公務員は、許認可の相手方、補助金等の交付を受ける者など利害関係者から、金銭・物品の贈与や接待を受けたりすることを、禁止されている。

利害関係者にあたる菅正剛氏らはそれと知りつつ、自分たちの放送事業の許認可をする官庁の幹部を酒食の席に招待し、官僚たちはそれに応じていたのであり、国家公務員倫理法違反のみならず、贈収賄の疑いも免れない。

賄賂とは「自分の利益になるようとりはからってもらう目的で贈る金品」だが、受け取る公務員側にすれば「職務に関して受け取る不正な報酬」ということになる。「不正な報酬」には、金品、旅行、就職の世話、性的サービスなどのほか「接待」も含まれる。

2月15日の衆院予算委員会で川原隆司・法務省刑事局長は「一般論として、刑法の収賄罪における賄賂とは、公務員の職務に対する不法な報酬、利益で、利益は財産上にとどまらず、人の欲望を満足させるものであればよいとされ、接待饗応も賄賂になり得る」と答弁している。

それを承知しているはずの官僚たちがなぜ、危険な接待に応じたのだろうか。文春の記事には以下の記述がある。

「彼らが正剛氏の背後に父親の影を見るからですよ。総務副大臣、総務大臣を歴任した菅氏が、時の総務大臣以上に省の人事を掌握しているのは有名な話。東北新社の二宮社長以下経営陣は、それを分かった上で息子に違法接待を行わせているのだから、経営責任を問われても、正直仕方がないと思います」
(東北新社関係者)

相手が菅首相の息子でなければ、高級官僚たちは招待を受けなかっただろうというのだ。現に、2月15日の衆院予算委員会で、他の同業者とも会食をするのかと問われた秋本情報流通行政局長は「ございません」と答えている。もし正剛氏から父親に悪評でも吹きこまれたら、左遷人事で痛い目にあいかねない、とでも思うのだろうか。

彼らは、文春の取材を受け、はじめてコトの重大さを知ったらしい。2月4日の衆院予算委員会。野党議員の追及を受けた秋本局長は概ね、次のように釈明した。

「会食の出席者のなかに利害関係者はいないと思っていたので支払いはしなかった。取材を受けているうちに、いることがわかったので、確認できる範囲で返金した」

どうやら、許認可の相手となる放送業者は東北新社の子会社であり、東北新社そのものは利害関係者にあたらないと思っていたが、取材を受けていて、菅正剛氏が株式会社「囲碁・将棋チャンネル」の取締役であることを知ったと言いたいらしいのである。

しかし、前述のように、秋本局長は2016年から4回も菅正剛氏の接待を受けている。浅い付き合いならまだしも、そんな言い訳は通用しない。

菅首相は国会で正剛氏に関して追及され、「今はもう40くらいですよ。私はふだんほとんど会ってないですよ。私と長男を結びつけるというのは、それはいくらなんでもおかしいんじゃないでしょうか。私と完全に別人格ですからね」と憤慨した。

その言い分もわからぬではないが、総理大臣たるもの、総務官僚の腐敗に自分の息子がからんでいることについては、もっと深刻に受け止めてもいいのではないか。別人格で関係がないで済ますには、コトが重大すぎる。

武田総務相は16日の衆院本会議で、菅正剛氏に接待された総務省幹部4人を「一日も早く調査を終えて」処分する考えを示した。それで幕引きできるのだろうか。

image by: 首相官邸

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