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官僚も姑息。菅首相ロン毛長男を違法接待に走らせた衛星放送利権の闇

繰り返し放たれる「文春砲」により次々と事実が明らかになってゆく、菅首相の長男による総務省のエリート官僚らへの違法接待疑惑。これまでに同省幹部11人の処分が発表されましたが、官邸サイドはこれを以て当案件の幕を引くつもりでいるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、週刊文春が暴露した接待時の音声データの内容から窺い知れる参加者たちの思惑を推測。さらにこのような接待は「社交儀礼の範囲内」であるとは思えないとし、贈収賄に当たる可能性にも言及しています。

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衛星放送利権の闇に紛れ、菅ジュニアの誘いに応じ続けた高級官僚たち

菅首相がかつて総務大臣だったころ、大学を卒業後間もない25歳の長男、正剛氏を政務秘書官にした意図はどこにあったのだろう。

いまや中年となった菅正剛氏は、東北新社なる衛星放送関連会社の部長として、昔なじみの幹部官僚たちを高級料亭などでもてなし、違法接待事件の主役に躍り出ているが、まさか菅首相がそんな活動を待ち望んだということはあるまい。

正剛氏らが衛星放送事業を有利に運ぼうとしていた疑惑を裏付けるような音声データつきの第2弾を文春砲がぶっ放し、総務省が調査報告や懲戒処分で幕引きを焦るなか、ようやくテレビの報道番組も、監督官庁に起きた不祥事の報道に本腰を入れ始めた。

接待されたなかには、これまでに文春が報じた4人の幹部官僚のみならず、菅首相の記者会見を取り仕切る山田真貴子内閣広報官らも含まれ、発表されただけでも13人、のべ39件の会食が判明、深刻な汚染状況が明瞭になりつつある。

総務省が2月22日に発表した調査報告によると、39件はいずれも東北新社側が費用を負担しており、国家公務員倫理規程に違反する疑いがある。接待されたのは、総務審議官、情報流通行政局長、その下の衛星・地域放送課長といった面々だ。BSやCSなど10チャンネルを子会社が運営する東北新社はあきらかに利害関係者である。

山田内閣広報官は、総務審議官当時の一昨年11月に菅正剛氏らと会食していたという。なんと、このときの食事代金は1人あたり7万4,203円。よほど高い酒でも飲まないかぎり、こんな額にはならないだろう。

山田氏は、安倍政権下の2013年から15年まで広報担当の首相秘書官を務め、いったん出身官庁である総務省に移ったが、菅首相が内閣発足とともに呼び戻した。放送メディアへ睨みを利かせるための人事でもあった。

谷脇康彦総務審議官、吉田眞人総務審議官、秋本芳徳情報流通行政局長、湯本博信情報流通行政局官房審議官の4人についても、東北新社との会食は、これまで国会で報告された回数を上まわることがわかった。2016年7月から20年12月にかけて延べ19件。谷脇氏が4件、吉田氏が5件、秋本氏が7件、湯本氏が3件というから、まさにズブズブの関係といえる。

おそらく、菅首相と東北新社の親密な関係は、総務省の電波・放送畑では周知の事実なのだろう。

2月22日の衆議院予算委員会。文春砲でこの一件が暴露されて以来、国会初お目見えとなった総務省ナンバー2、谷脇総務審議官(事務次官級)は、東北新社からどのような形で会食の誘いがあったかについて、こう述べた。

「4回とも、私はやりとりしていない。秘書と先方の担当者で日程調整をした。昨年10月7日の会食は、秘書のパソコンにメールで案内が入り、秘書を通して出席の返事をした」

そのメールには東北新社側の出席予定者が記されており、正剛氏の名もあったという。

谷脇氏は旧郵政省組のトップだが、主に情報通信分野を歩み、安倍政権では内閣官房のIT担当審議官として当時の菅官房長官に重用されていた。携帯料金値下げを推進するキーマンでもある。

放送行政に関しては、谷脇氏は実務経験がなく、業界とのつながりも薄い。それでも、あたかも公務であるかのごとく、秘書を通じて高級料亭での会食に出席の返事をしている。菅首相と東北新社の関係に配慮したとしか思えないのである。

もちろん、2006年からしばらくの間、菅総務大臣の政務秘書官だった正剛氏を谷脇氏は知っているだろう。

菅首相は、東北新社との関係や、正剛氏が入社したときのいきさつについて、2月22日の衆院予算委で、こう語った。

「東北新社の創業者(故植村伴次郎氏)は同じ秋田の出身で懇意にしていた。長男(正剛氏)は、私が植村さんに会うとき一緒についてきていた。政務秘書官時代に2人の関係が深くなったのも事実で、就職が決まった後、私は報告を受けた」

東北新社の創業者とは親しかったが、正剛氏の就職を頼んだおぼえはない、というわけだ。

2月17日の衆院予算委で、菅首相は植村伴次郎氏から2012年に150万円、植村氏の長男で当時社長だった植村徹氏から12年12月~18年10月に計350万円、合わせて500万円にのぼる献金があったことを明かしている。

東北新社を、衛星放送業者のなかでも菅銘柄の特別な存在として、総務官僚たちが見ていたのは間違いない。

企業が監督官庁の役人を接待する目的は、法運用などで自社に有利に取り計らってもらいたいからだ。東北新社は、大臣秘書官時代に築いた菅正剛氏の総務省人脈を活用し、スターチャンネルなど衛星放送における既得権益の維持、拡大をはかろうとしてきた。

2017年1月には、悲願の「超高精細度テレビジョン放送に係る衛星基幹放送業務」の認可を取得し4K、8K時代に対応する準備を整えた。

そして、「スターチャンネル」「ザ・シネマ」の4K放送が、2018年12月にスタートしたのだが、総務省はほぼ同時期に、BS放送で3チャンネル分の新規参入事業者を募集し始めた。東北新社の総務省に対する警戒感が強まったのは間違いない。

週刊文春が文春オンラインや誌上で暴露した、会食時の音声データは、そんな事情の断片をうかがわせる。

総務省の秋本情報流通行政局長が、昨年12月10日、六本木の小料理屋で、菅正剛氏らの接待を受けたさい、複数の文春記者が客として入店し、ひそかに録音していた。以下は、東北新社の部長にして株式会社囲碁将棋チャンネルの取締役でもある正剛氏と、同じく子会社の東北新社メディアサービス社長、木田由紀夫氏が、秋本局長と交わした会話だ。

正剛氏「今回の衛星の移動も……」

 

木田氏「どれが?」

 

正剛氏「BS、BS。BSの。スター(チャンネル)がスロット(を)返して」

 

木田氏「あぁ、新規の話?それ言ったってしょうがないよ。通っちゃってるもん」

 

正剛氏「うちがスロットを……」

 

木田氏「俺たちが悪いんじゃなくて小林が悪いんだよ」

 

秋本氏「そうだよ」

 

木田氏「俺たちは別に逆らえないからやっただけで。だから手伝うところ手伝っているけど」

 

正剛氏「次の有望株なんですから、小林」

 

秋本氏「いやぁ、でもどっかで一敗地に塗れないと、全然勘違いのままいっちゃいますよねぇ」

この会話をどう読み解けばいいのか。ポイントは「小林」だ。17年8月から翌年10月まで総務政務官だったNTTドコモ出身の小林史明衆院議員のことであるのは間違いない。

小林議員は総務政務官だった当時、BS帯域の再編に人一倍熱心だった。テクノロジーの進化で、画質を保ったまま電波帯域を圧縮することが可能になったため、空いた帯域を放送会社から国に返してもらって、そこに新規参入を促すという政策の推進役をつとめていた。

「スター(チャンネル)がスロット(を)返して」という正剛氏の発言は、東北新社が空き帯域を国に返上したという意味であろう。昨年11月30日以降、「スターチャンネル」など既存のチャンネルは、使わずにすんでいるスロット(帯域)の返還を迫られている。おそらくこの会食は、返還した直後のタイミングだったのではないか。

総務省は、既存の衛星放送事業者の「自主返上」によって空いたとするBSの周波数帯域で、新規参入事業者を公募。9社から応募があった。

19年9月、電波監理審議会へ諮問した結果、吉本興業、ジャパネットホールディングス、松竹ブロードキャスティングの子会社の3事業者が認定された。3つのチャンネルは21年末に放送開始の予定だ。

木田氏は、逆らえないからスロットを返した、それは「小林が悪い」のだと愚痴を言い、「秋本さんらは悪くない」の含意を感じ取った秋本氏が「そうだよ」と同調。

正剛氏が「有望株ですから」と皮肉まじりに小林を持ち上げたのに反応して、「一敗地に塗れないと、全然勘違いのままいっちゃいますよ」と、秋本氏は、2人の機嫌を取るように言う。そんな情景が、この音声から浮かび上がってくる。

秋本氏が局長をつとめる総務省情報流通行政局は2019年3月、「放送法の一部を改正する法律案」をまとめた。そのなかで、衛星基幹放送の新規参入や多様化、高度化をはかるため、新たに周波数使用基準を定めて、許認可審査の要件とする方針を打ち出している。

つまり、限られた電波を効率的に利用することで、より多くの事業者が参加できる環境を整え、競争のなかから質の高い放送を生み出そうという目論見だろう。

しかし競争激化は、東北新社のような既得権を持つ事業者にとっては好ましいことではない。衛星放送関係のエリート官僚たちをできる限り取り込んでおこうという魂胆の接待攻勢は、環境変化を怖れるがゆえの悪あがきといえる。

一方、接待される官僚の側からみれば、秘書官のころから知っている菅首相の息子の誘いゆえに、気安くもある半面、菅首相の影を感じるプレッシャーもあり、畢竟、味方の顔をしておくのが得策というズルい考えも働いたに違いない。

いずれにせよ、東北新社が躍起になって官僚たちを接待し、倫理規程違反を承知で官僚たちが馳せ参じたのは確かである。官僚たちは、接待の意味するところを汲み取り、いくばくかのマル秘情報を提供するくらいのことはしただろう。

上記3人のわずかな時間の音声データにおいてさえ、総務省の所管業務に関連したディープな話が出ている。こうした接待が「社交儀礼の範囲内」であるとは思えない。贈収賄の色合いがますます濃くなってきた。

image by: 首相官邸

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