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自衛隊が強くなる。「一般大学出身の陸上幕僚長」30年ぶり誕生の意義

3月26日、陸上自衛隊のトップである陸上幕僚長に東大卒の吉田氏が就任。陸幕長は1990年から防大出身者が続いており、一般大学出身者のトップ就任は30年ぶりと話題になりました。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、30年ぶりというのがいかにも不自然で、陸自内に防大第一とする序列主義があると指摘。米軍では2等兵からトップに上り詰める例もあると紹介し、厚い壁を破った新陸幕長には、出身によらない実力主義の組織改革を期待しています。

吉田陸上幕僚長に期待する

陸上自衛隊のトップ陸上幕僚長に吉田圭秀陸将が就任しました。30年ぶりの一般大学出身者ということで話題になっています。

「陸上自衛隊トップとなる新しい陸上幕僚長に東大卒の吉田圭秀(よしひで)氏(58)が就任した。防衛大学校出身者でない一般大学出身の陸幕長は約30年ぶり。1日の会見では『国民の負託に応えうる強靱(きょうじん)な陸自を創造したい』と意気込みを語った。

 

防衛省によると、陸自創設以降、陸幕長は旧陸軍や一般大学出身者が就いてきたが、1990年から防大出身者が続いていた。

 

吉田氏は東京都出身。東大工学部に進み、安全保障に関する本を読んで『将来極めて重要な分野になる』と考え、86年に陸自へ。西部方面総監部幕僚副長や第8師団長などを歴任した。陸幕長就任は3月26日付」(4月3日付朝日新聞)

私も吉田さんのことは陸上幕僚監部の防衛課長の時代から知っています。人格識見ともに申し分のない人材で、自衛隊全体の変革のキーパーソンだと思っています。いただいた挨拶状にも、戦略的に取り組んでいくと抱負が述べられていました。

その吉田さんにお願いしたいことがあります。吉田さんの前の一般大学出身者は寺島泰三さん(東北大学)で、その後の志摩篤さん(防衛大学校1期生)からずっと30年も防衛大学校出身者が続いた点を、今後、どのように自衛隊の改革に位置づけるかということです。

米軍と比べた場合、自衛隊の構造的欠陥とそれに伴う脆弱性は硬直した人事制度にあります。トランプ政権の国防長官ジェームズ・マティス氏やイラク戦争当時の中央軍司令官トミー・フランクス氏は、2等兵から入隊してそれぞれ海兵隊と陸軍の大将に上り詰めました。大卒の資格は軍に勤務しながら取得しています。ブッシュ(子)政権で国務長官を務めたコリン・パウエル氏も一般大学(ニューヨーク市立大学)出身で米軍トップの統合参謀本部議長になりました。

日本の場合、そんな例はありません。それどころか、防衛大学校出身者でなければ人にあらずのような人事が自衛隊の士気を下げてきた面もあります。30年近く前の話ではありますが、私も「成績がよくても、UやIの序列はBの後にする」と直に防衛大学校1期生から本音を聞かされたことがあります。

自衛隊の内部では、出身によってB(防衛大学校)、U(一般大学)、I(部内選抜)という区分があり、マティス氏やフランクス氏のように部内選抜の幹部が将官になることは稀といってもよいのです。

私の自衛隊生徒の同期生も、部内選抜を選んだM・T君は指揮幕僚課程もトップクラス、対戦車ヘリのパイロットとしても大きな功績を残しましたが、最終階級は1等陸佐の(一)でした。1等陸佐には(一)(二)(三)があり、(一)は外国の准将や上級大佐のようなものです。

T君の成績は方面総監になってもおかしくないものでしたが、部内選抜出身者の将官枠が存在しないに等しく、しかも航空職種の枠も非常に限られていたため、そのような結果になりました。これは親しい知人が陸幕の人事部長時代に調べてくれたものです。

同じ同期生でも私立大学の夜間部に通い、海上自衛隊に転じたT・T君は航空集団司令官(海将)としてP-1哨戒機の国産化など海上自衛隊の対潜水艦戦能力を飛躍的に向上させました。このT・T君は「Uダッシュ」と言って一般大学出身者として扱われた結果、トップレベルまで昇進できたのです。海上自衛隊と航空自衛隊は、人事面で陸上自衛隊とは少し違う面があるようです。

陸上自衛隊の場合、指揮幕僚課程(CGS)が将官への登竜門であり関門とされますが、それを出た後は出身に関係なく公平に昇進させなければ、米軍のような活力など生まれるはずがありません。努力する者が必ず報われる組織でなければ、戦場で命を預け合う信頼関係は成り立ちません。防衛大学校出身者にも優れた人材は少なくありませんが、吉田さんが30年ぶりの一般大学出身者というのはいかにも不自然な気がします。

新しい安全保障環境に対応すべく、職種の枠も、昔の名残を引きずった普通科(歩兵)・特科(砲兵)・機甲科(戦車)中心から大幅な改革が行われつつあります。B(防衛大学校)、U(一般大学)、I(部内選抜)の区分を超えたマンパワーの発揮を目指して、吉田さんの時代に改革を進めてもらいたいと期待しています。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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