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首都直下地震「被害想定額95兆円」に日本は耐えられるか?発生率70%の重大リスク

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界を恐怖に陥れてから早1年以上が経過しました。しかし、日本人が新型コロナに加えて忘れてはならない「禍」こそ、「首都直下型地震」の発生リスクです。軍事アナリストにして、自然災害などの「危機管理のプロ」として活躍する小川和久さんは、自身のメルマガ『NEWSを疑え!』で、30年以内に発生率70%と言われるM(マグニチュード)7以上の地震が予測される南関東の被害規模や被害総額のデータを改めて紹介。そして、万が一のための「もう一つの首都」という代替機能の必要性についても論じています。

※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年7月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

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中国どころじゃない。「首都直下型地震」の備えは大丈夫なのか?

Q:新型コロナ・パンデミック(世界大流行)のなか「日本が直面するリスクは?」と問われ、さまざまな意見が出されていますね。ところが、当メルマガがかつて指摘した〝首都東京というリスク〟は、どうも忘れられがちなようです。今回はこれを取り上げてください。では、近い将来必ず起こると予測されている首都直下型地震について。(聞き手と構成・坂本衛)

小川:「政府の地震調査研究推進本部・地震調査委員会は、首都直下地震で想定されるマグニチュード7程度の地震の30年以内の発生確率を70%程度(2020年1月24日時点)と予測しています。地震調査研究推進本部は、日本政府が地震に関する調査研究を一元的に推進するために文部科学省に設置している機関です(1995年7月新設時は総理府の下部機関。2001年中央省庁再編で文科省に移管)」

「南関東では、(1)M8クラスの巨大地震がおよそ200~300年ごとに1回、その空白期間中に(2)M7クラスの地震が多数(100年間で3~4回)起こっています」

「(1)は『海溝型』で、1703年元禄地震と1923年関東地震(死者・行方不明10万5000人の関東大震災)がそうです。前回は98年前ですから、当面は起こりにくいとされています。(2)は『直下型』(浅い地震)で、これが30年以内に7割方起こるとされています。ただし、震源が西新宿の都庁直下か、東京湾の奥か、埼玉や千葉や神奈川か、まではわかりません。阪神淡路大震災のような地震が、いずれ南関東や首都圏のどこかを含むエリアで起こるだろう、という話です」

「阪神淡路のとき震度7で揺れたのは幅1.5キロ×長さ20キロといった狭い地域でした。これは首都直下型地震の場合も同様で、それほど広くないと思われます。しかし、その周辺の広い地域が震度6強や6弱で強く揺れるでしょう。場所がわからない以上、南関東のすべての場所で最大の地震動=震度7に備えることは、基本中の基本です。首都直下地震で発生する東京湾内の津波は高さ1メートル以下で、あまり心配はいらないとされています」

震度7分布(神戸市サイト 阪神淡路大震災の概要) 

「30年以内にかなり高い確率で起こるとされる首都直下地震の被害想定は、死者が最大約2万3000人(うち市街地火災で1.6万人)。全壊・焼失家屋が最大約61万棟(うち市街地焼失41.2万棟)です。これは地震が冬の夕方に発生した場合です。ライフライン・インフラへの被害は、停電が最大約1220万件(直後に区部の約5割が停電)、固定電話の不通が最大約470万回線(携帯含め9割通話規制が1日以上続く)、区部の約5割が断水、地下鉄1週間・私鉄と在来線は1か月運行停止の可能性など。生活への影響は、避難者数最大約720万人で、食糧不足が最大約3400万食。冬の深夜に発生した場合の建物被害にともなう要救助者は最大約7.2万人、などとなっています」

「被害額は、インフラ設備や建物などに対する直接的な被害額が約47.4兆円。生産やサービスなど経済活動への影響が約47.9兆円で、合計95.3兆円です。これは2010年度の日本国の予算(歳出)額と同じ額。09~19年度の予算は95.3~104兆円の間で推移していますから、首都直下地震で最近の国家予算の92~100%の額が吹っ飛ぶということです」

首都直下地震対策検討ワーキンググループ最終報告の概要(2013年12月19日) 
首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~本文~ (中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ 2013年12月) 
首都直下地震の被害想定(東京大学生産技術研究所 加藤孝明) 
内閣府 中央防災会議 防災対策推進検討会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ

「NHKサイトの次のページのうち、下のほうの『首都直下地震 被害想定マップ』は必見です。NHKはよいものをつくった、とちょっと見直しました。内閣府による被害想定に基づき、震源地が都心南部直下、冬の夕方、風速8メートルの場合の(1)震度分布、(2)全壊棟数、(3)焼失棟数を、250メートル四方のメッシュで色分け表示します。左上のスケールで拡大すれば、自分の住まいがある250メートル四方で想定される焼失棟数が、5軒以下か、5~10軒か、10~30軒か、30~50軒か、50~100軒か、100軒以上か、などとわかります」

首都直下地震 被害想定 死者約2万3000人 (NHK「災害列島 命を守る情報サイト」2019年11月25日) 

首都直下地震の“被害想定マップ”(NHK「体感再び 首都直下地震」) 

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「もう一つの首都」という代替機能

Q:甚大な被害が生じる恐れのある首都直下型地震に対して、小川さんは「もう一つの首都」構想を2004年ころから打ち出された。どういうことですか?

小川:「一つのきっかけは、ミュンヘン再保険会社が2002年に保険業界の国際会議で公表した『世界大都市圏の自然災害リスク指数』で、東京が『世界でもっとも危険な都市』と指摘されたことでした。これによると、世界でもっとも危険な大都市圏は東京・横浜圏で指数710。2位サンフランシスコ湾地域(167)の4倍、3位ロサンゼルス圏(100)の7倍というハイリスク評価が下されました」

「このリスク指数は、世界の金融・保険業界に〝災害危険大国・日本〟を強く印象づけ、国内の防災関係者や金融・保険業界にも大きな衝撃を与えました。これを見て日本から脱出する外資も出たのです」

「その後、私たちは日本の首都・東京の機能を代替するもう一つの首都が必要であると考え、これを『国家危機管理国際都市』、英語でNEMIC(=National Emergency Management International City ネミック)と名づけました。2004年秋には民主党の石井一さんが中心となって構想を打ち出し、国会には超党派の『危機管理都市推進議員連盟』も誕生しました。これは2005年4月に参加議員が360人以上と過去最大の議員連盟になりました。2011年の東日本大震災で、東京の代替機能の必要性がより切実に意識されるようになったことは、いうまでもありません」

「もう一つ、この代替機能の構築はリスク分散の考え方に基づき重層的に行う点がポイントです」

「アメリカには『一つのバスケットに卵を入れるな』(Don’t put all your eggs in one basket.)という格言があり、典型的なアングロサクソンの家庭教育とされています」

「親から手伝うようにいわれた子どもは、鶏小屋を回って卵を集めるとき、早く卵を集め終わって遊びたいと思うでしょう。そこで、運ぶのを1回で済ませようと大量の卵を一つのバスケットに詰め込めば、運悪く途中で転んでしまい、全部が割れてしまうかもしれません。でも、手間ひまを惜しまず、何回かに小分けして卵を運べば、1回転んだくらいなら大部分の卵は助かります」

「これはリスクを分散して被害を局限しようという危機管理の発想です。この考え方がアメリカ大統領の職務権限継承順位や米国政府存続計画で徹底的に貫かれていることは、当メルマガで繰り返しお伝えしているとおりです」

「首都直下型地震の危機に直面している東京が、政府機能や防災都市計画などを徹底的に見直して抗堪性《こうたんせい》(攻撃や災害などに耐えて機能を維持する能力)を向上させることは当然です。それと同時に、リスク分散の考え方によって、首都機能を副首都ともいうべき『もう一つの首都』(NEMIC)と、『衛星都市群』(その代表的な都市が『危機管理拠点都市』)によって、重層的な代替機能を構築すべきです。構想の詳細は、ちょうど10年前のメルマガをお読みください。後半の見出し『これが国家危機管理国際都市NEMICの全貌だ』以下に、具体的に触れています。構想の進め方については、9年前のメルマガ後半でお話ししています」

『NEWSを疑え!』第24号(2011年6月23日号) なぜ「もう一つの首都」が必要なのか──「副首都・NEMIC」とは 

『NEWSを疑え!』第96号(2012年3月8日号) 東日本大震災1年──日本は副首都を建設せよ! 

(本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年7月15日号の一部抜粋です。続きは『NEWSを疑え!』をご登録手続きの上、2021年7月分のバックナンバーをご購入いただくと読むことができます。また、2021年8月中のお試し購読スタートで、8月分の全コンテンツを無料(0円)でお読みいただけます)

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2021年8月配信分
  • 『NEWSを疑え!』第978号(2021年8月2日特別号)
    ◎テクノ・アイ(Techno Eye)
     ・イスラエルの防空にレーザー兵器が加わる
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎編集後記
     ・米国の脅しはハンパじゃない(小川和久)(8/2)

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2021年7月配信分
  • 『NEWSを疑え!』第977号(2021年7月29日号)
    ◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
     ◇◆中国がアフリカを囲い込んでいる
     ◆21世紀以降、急速にアフリカを資源供給地化
     ◆四位一体でしぼり取る「アンゴラ・モデル」
     ◆増大する軍事的プレゼンス
    ◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
     ・台湾で開かれる世界最大の安全保障会議
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
     ・ガザ空爆の陰にイスラエル無人機の群行動(西恭之)
    ◎編集後記
     ・選挙に勝つチャンスを手にした菅首相(7/29)
  • 『NEWSを疑え!』第976号(2021年7月26日特別号)(7/26)
    ◎テクノ・アイ(Techno Eye)
     ・C-130を使った米国の空中消火
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎編集後記
     ・東京五輪と習近平のチベット訪問(小川和久)
  • 『NEWSを疑え!』第975号(2021年7月19日特別号)(7/19)
    ◎テクノ・アイ(Techno Eye)
     ・匂いでガスを探知する超小型ドローンの群
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎編集後記
     ・アフガン撤退とベトナムのアーミテージ(小川和久)
  • 『NEWSを疑え!』第974号(2021年7月15日号)(7/15)
    ◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
     ◇◆中国どころじゃない首都直下地震のリスク
     ◆発生確率30年以内70%、被害想定額95兆円以上
     ◆「もう一つの首都」という代替機能
     ◆安全がなければ繁栄などあり得ないんだぞ!
    ◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
     ・ドローン搭載の地中レーダーによる災害捜索救助
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
     ・米海軍の諸課題の根底に文化的欠陥(西恭之)
    ◎編集後記
     ・ここにも国家の危機
  • 『NEWSを疑え!』第973号(2021年7月12日特別号)(7/12)
    ◎テクノ・アイ(Techno Eye)
     ・フィリピン空軍はF-16戦闘機を導入できるか
    (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎編集後記
     ・危機管理から見た災害不明者の公表(小川和久)
  • 『NEWSを疑え!』第972号(2021年7月8日号)(7/8)
    ◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
     ◇◆〝連合王国〟イギリスの真実
     ◆イギリス気質とは
     ◆四つのカントリーが連合王国になった
     ◆イングランド支配への積年の感情
    ◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
     ・中国原発、放射能漏れの差し迫った脅威
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
     ・米国防総省がクラウド調達をやり直す(西恭之)
    ◎編集後記
     ・麻生太郎、グッジョブ!
  • 『NEWSを疑え!』第971号(2021年7月5日特別号)(7/5)
    ◎テクノ・アイ(Techno Eye)
     ・米海軍がレールガンの開発を中止
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎編集後記
     ・習近平はいつ軍を掌握したか (小川和久)
  • 『NEWSを疑え!』第970号(2021年7月1日号)(7/1)
    ◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
     ◇◆アフリカの星「パトリス・ルムンバ」
     ◆独立を勝ち取り、初代コンゴ首相に
     ◆遺体は硫酸で溶かされた
     ◆ベルギーは殺害を黙認、アメリカは暗殺を計画
    ◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
     ・サハラでの太陽光発電で温暖化が進む
     (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
    ◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
     ・「停戦」「休戦」の国際標準の使い分け(西恭之)
    ◎編集後記
     ・嗚呼! 日本の水際対策

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image by: ETOPO1, Global Relief Model / public domain

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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