安さなりの味ではないことは、お客さまの多さでわかります。地域の人みんながファンなのです。お客さまの中には、亡くなった父親が好きだったからと、父親の誕生日に買いに来る人もいます。お店のファンである子どもたちから、手紙が届くこともあります。
「いつも美味しいケーキをありがとう」
「やさしく話しかけてくれて、ありがとう」
「これからも元気で長生きしてね」
こうした手紙は、お店の入口に貼り出されています。
このお店が愛される理由は、まだあります。お母さんです。いつも明るく笑って、お客さまとおしゃべりします。歳を取って、お客さまとのやりとりがチグハグになることもありますが、それもお母さんの魅力となっています。
最後には、「アメちゃん、いるか?」のひと言。カゴに入れたアメを差し出すのです。定番ギャグのようになっているこの言葉で、笑いが起きます。そして、駄目押し。「大阪のオバちゃんやからな!」
お客さまは、笑顔で「ありがとう!」と言って、帰っていきます。中には、心でツッコミを入れている人もいます。
「ここは兵庫県やけどな」
これもお母さんの面白さです。
そんなお母さんと息子さんは、毎日11時間半も働き、給料もありません。つまり、生活費だけ。だから、安いケーキが販売できるのです。
息子さんは、「お金のことを考えてたら、商売はできない」と言います。
私は、商売は儲けなければいけないと思います。しかし、このお店のように、お客さまの喜ぶ顔を見たいがためだけに、頑張り続ける人たちがいることを忘れてはいけません。それも商売人の姿なのです。
本当に素晴らしいケーキ屋さんです。
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