そもそもなぜ、日本の賃金はこんなにも低いのでしょうか。なぜ、コロナ前「空前の人手不足」に陥りながら、賃金は全く上がらなかったのか。古くから「人手不足になると実質賃金が上昇し、新たな均衡が実現する」と経済学では、“当たり前”のように言われてきました。ところが、日本ではバブル崩壊以降、いざなき景気を超える好況期でも、「賃金の上方硬直性」といわれる特異な現象が起き、コロナによりますます上がる見込みは遠のいています。
かつての経済学の理論が想定しなかった異常事態です。
専門家たちからは「賃金をあげることより、雇用維持を重視してるから」「高齢化が進んでるから」「経営者があげることへの不安感が強すぎるから」「外国人労働者を増やしたから」「労働生産性が低いから」などなど、あれやこれやと「賃金が上がらない」理由が指摘されています。これらの要因が複雑に絡み合った結果なんだ、と。
が、「理由とかどーでもいいから、あげてくれよ~」というのが、働く人たちの本音ではないでしょうか。
私自身は、そういった諸要因は間接的なものであって、日本の現場力の衰退にこそ原因があると考えています。
つまるところ、日本は付加価値ある製品を、商品をつくってこなかった。
他の先進国は、比較的高い値段をつけても高く売れるもの、つまり付加価値が高いものをつくってきたのに、それをしなかった。いや、できなかった。それが日本の最大の問題だと思うのです。
付加価値がうまれるのはいつの時代も「現場」です。その「現場」に投資をしなかった。教育の機会を減らし、安い労働力の確保に精を出し、技術移転をする機会も、技術を磨く時間も与えなかった。短期的かつ短絡的に、コスト削減に精を出してきた経営者のツケを「働く人」が払わされている。そう思えてなりません。
以前、「世界に誇る技」を持つ日本の中小企業を取材して回った時に、ある町工場の社長さんがこんな話をしてくれました。
「ものづくりと会社を経営することは一緒ですよ。作った品物とお金を交換するだけのこと。シンプルに考えればいい。金儲けばかり考えているとおかしくなる。周りの人は俺に、金儲けを考えないなんてバカだのなんだのいうけど、素晴らしいモノを作って、それをお金に交換する。それだけのことなんだよ」と。
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image by: StreetVJ / Shutterstock.com