アパレル産業を「持続可能なビジネス」にすることは可能なのか?

 

3.アパレル業界は恵まれていた

日本のアパレル業界は、デザイナー、パターンナーの人材育成はファッション専門学校に依存してきた。ファッション専門学校はアパレル業界の要請で作られたのではなく、洋裁学校が発展したものだ。ファッション専門学校はアパレル業界に依存せずに、独自の教育ビジネスを展開してきた。従って、日本のアパレル業界は技術職の人材育成の心配をすることなく、売れる商品を追いかけることができたのである。

また、テキスタイル産業は和装、輸出、官需等で技術を磨き、あるいは合繊メーカーや紡績の下請けとして技術を磨いており、世界一流のテキスタイルが存在していた。縫製に関しても、世界一の技術を誇る日本の工業ミシンメーカーが縫製工場を指導してきた。

販売先に関しても、百貨店、量販店はアパレル産業が育てたわけではない。アパレル産業が生れた時には既に存在していたのだ。日本のアパレル産業は、ビジネスに関する全ての資源が用意されている環境の中で成長してきた。そして、自らの利益だけを追求すること、つまり収奪だけを考えれば良かったのである。

4.目指すべきファッションビジネスモデル

今後は、ファッション資源、顧客資源を育成しながら、それを枯渇させることなく、循環させなければならないと思う。まず、目指すファッションビジネスのイメージとはどんなものか。

欧米のトレンド情報を素早く収集し、人件費の低い国で生産し、所得の高い地域で販売する。これは、ファストファッションのイメージである。ファストファッションがなくなることはないだろうが、日本のように人件費の高い国でこれを行うのは難しくなるだろう。また、このビジネスモデルは既にピークを過ぎている。

かつての高級プレタポルテは、ファッション可処分所得の高い顧客を囲い込み、安定したビジネスを展開していた。かつてのパリのオートクチュールやプレタポルテもこれに近い業態だった。大きな成長は見込めなくても、固定客を相手に丁寧なビジネスを行うこと。これは、ファッションビジネス、特にアパレルビジネスの基本になることは間違いない。

このスタイルは先進国型のファッションビジネスでもある。人件費の低い国で安価な商品を大量生産するのではなく、顧客に近い場所で付加価値の高い商品を少量生産、あるいは手工業的生産を行うというビジネスモデルである。

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