その後の欧米とロシア
その後の欧米とロシアの関係を見てみましょう。
プーチンは、ロシアの西隣の旧ソ連国ウクライナがNATOに加盟することを、「レッドラインだ」と呼んでいます。いえ、NATOに加盟しなくても、「ウクライナにNATOの軍事インフラが設置されること」も「レッドラインだ」と主張しています。その理由は、「そうなれば、5分でロシアを攻撃できるようになる」と。理解はできます。
では欧米とロシアの間に何が起こっているのでしょうか?
2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア派ヤヌコビッチ政権が崩壊しました。2014年3月、プーチンは、ウクライナからクリミアを奪いました。2014年4月、ウクライナ東部でロシア系住民が多いルガンスク、ドネツク州が独立を宣言。親欧米ウクライナ新政府は、もちろん独立を容認せず、内戦が勃発します。これは、新政府を支援する欧米と、東部親ロシア派を支援するロシアの代理戦争です。
この内戦は2015年2月の「ミンスク合意2」で一応停戦しました。しかし、ルガンスク、ドネツク州は、ロシアの支援によって「事実上の独立」を保ったままです。
2014年、親欧米のポロシェンコが大統領になりました。2019年、お笑い芸人のゼレンスキーが大統領になります。彼は当初、「ロシアとの対話」を主張していました。しかし、私たち日本人はよく理解できますが、「プーチンとの対話は疲れる」のです。というのも、条件を提示してくるだけで、自分が妥協することは決してないからです。ゼレンスキーは、「プーチンとの対話は無理」と理解し、最近は、EU、NATOに接近しています。
ロシアの隣国ウクライナがNATOに入る。これは、ロシアにとって「レッドライン」で「悪夢」です。だから、大軍を集結させて、脅迫している。
そして脅迫しているのは、ウクライナではありません。脅迫すればするほど、ウクライナはNATOに走る。しかし、欧州の国々はどうでしょうか?ウクライナがNATOに入れば、欧州は関係ないウクライナを守るためにロシアと戦争になるかもしれない。だから、ロシア軍が集結すると欧州の国々は、「ウクライナをNATOに入れるのは、リスクが大きすぎる」となる。
アメリカはどうでしょうか?バイデン政権は、中国との戦いに集中するためにアフガン撤退を急ぎました。そう、中国と戦うバイデンは、プーチンと戦う時間も金も惜しいのです。だから、バイデンには、プーチンと和解したい動機があります。
プーチンの条件は、「ウクライナをNATOに加盟させない」こと、「ウクライナにNATOの軍事インフラを置かないこと」などでしょう。そして「中国問題で忙しいバイデンは、妥協するかもしれない」というのが、プーチンの読みなのです。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2021年12月7日号より一部抜粋)
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