パワハラ地獄ニッポン。縦社会で培われた「上は絶対」の時代遅れ

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12月7日に経団連が発表した「職場のハラスメント防止に関するアンケート結果」でも、5年前に比べて4割も増加したというパワハラの相談件数。昨年6月にパワハラ防止法が施行されたとは言うものの、その横行ぶりは目を覆うものがあります。そんなパワハラを働く人間を「幼稚」と一刀両断するのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、パワハラが一向になくなる気配のない日本を「人権後進国」と批判するとともに、多くの方の経験談を通して知った「パワハラと背中合わせ」のこの国の労働現場の異常さを訴えています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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日本のパワハラの異様さ

また、です。一体何人の犠牲者を出せば、日本は変わるのでしょうか。

パナソニックは社員だった男性が鬱病を発症して、2019年に自殺したのは、会社として「過大な業務量や長時間労働」を正さず、安全配慮を怠っためだったことを認めました。

男性は、03年から工場で派遣社員として勤務し、09年に正社員になり、19年4月には、配置転換に伴い、係長から課長代理に昇格したそうです。

その頃から、業務量が増え、業務用パソコンを自宅に持ち帰って仕事をするなど「持ち帰り残業」が常態化していました。男性はうつ病を発症し19年10月、自宅で亡くなりました。

労基署は21年3月、遺族側の請求に基づき労災を認定。一方、持ち帰り残業について「会社からの業務命令によるものではなく、黙示の指示があったとする実態も認められない」とし、労働時間に該当しないと判断。一方、パナソニック側は、独自に男性が自宅に持ち帰っていた業務用パソコンのログなどを調査し、自宅での作業についても、業務上、余儀なくされていたものだったと認定。

労基署の判断よりも踏み込んだ形で会社の責任を認め、遺族に謝罪し、解決金を支払うなどして和解したそうです。

今回のケースでは、会社側が裁判を経ず、独自の調査で持ち帰り残業を労働時間と認めた点は評価できます。

しかし、家に持ち帰らないと終わらないほどの業務を課し、心も体もボロボロになるまで追い詰めたのは、パワハラ以外のなにものでもありません。誰もが家に帰れば、尊敬すべき父であり母であり、大切な息子であり娘なのに…。パワハラごときで、うつ病にされたりや人生を滅茶苦茶にされて、いいわけがない。

「業務上、余儀なくされた」という温度のない言葉では、片付けられない重大な事件だと、会社には認識していただきたいです。

ただでさえ「課長」「課長代理」というポジションは、上からは叩かれ、下からは突かれ、気の毒になる程、大変なポジションです。いわば、上司=部長が最大のリスクファクター。どんな上司の下で働くかで、大きく職業人生は変わります。

これまでインタビューした人の中でも、一番しんどい時期を「課長時代」と答える人は圧倒的に多く、「ゆっくりと寝られる日が1日もなかった」「下が動かなかれば変わりをやり、上に言われたことは受け入れざるをえなかった」「家族のことを思うと、今、頑張らないと、と自分を自分で追い詰めていた」などと話してくれました。

つまり、パワハラと背中合わせで働いているといっても、過言ではないのです。

なのに、日本では、悲しい選択をする人があとをたたない。

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