リモートワーク化が進む企業では「仮想オフィス」の活用が増え、市場規模は今年8倍にもなると予想されているようです。社員のアバターが“出社”し、会議や相談事などコミュニケーションに役立つと期待は大きいものの、ミドル層の管理職の中には戸惑う人たちも多いのだとか。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんは、会社が「場」としての役割を失いつつあると憂慮。新たな働く場として「仮想オフィス」を設けるのなら、そこでもメンバーの力を引き出せるように、管理職をどう育成するかが大切になると訴えています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
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アバターで事足りる世界?
2022年がスタートしました。今年はコロナ感染拡大以降、急速に進んだ「新しい働き方」が本格化する1年になりそうです。そこで2022年1回目の今回は、昨年末に受けた「新しい働き方」に関する取材を取り上げます。
みなさんは「仮想オフィス」をご存知ですか?これは自宅にいながら「会社に出社」し、仮想空間でアバターがやり取りするオフィスのこと。つまり、「私」という存在そのものではなく、自分の分身となるキャラクター、すなわち「アバター」が働く、「新しい働き方」です。
矢野総合研究所が21年10月に公表した調査結果によると、仮想オフィスの導入は急拡大しており、21年度の市場規模は20年度の8倍にあたる20億円に達すると予測。特に、コミュニケーション不足を課題にあげる企業が導入を進める傾向が高く、25年度には180億円規模まで急増するという見通しを示しています。
アバターが会社に出社するだなんて、「映画の中の世界」のよう。かつて手塚治虫氏が描いた「21世紀の物語」が現実になったように、技術の発展は私たちの想像をはるかに超えるスピードで進んでいるのです。
実際、オフィスの役割を見直す企業は多く、規模を縮小する動きは加速しています。フリーアドレスにした企業も増えていますが、私が知る限り、社員には不評です。結局、力のある人が「いい席」を取り、仲のいい人たちと「固定席」を作る。自分の席が決まっていれば居場所があった人が、居場所を失うのです。
そもそも「会社」とは、単なるコミュニティではなく、「場」としての役割が極めて大きい。しかし、その「場」が、効率化という耳触りのいい言葉で消滅しつつある。今こそ、「会社が存在する意義」が問われているのに、その問いの答えを自問する経営者はどれだけいるのでしょうか?
むろん、リモートワークも、仮想オフィスも、フリーアドレスも、使い方次第ではプラス面も大きいので否定する気はさらさらありません。
しかし、「会社=COMPANY」の語源は、ラテン語のcompāniōnで、ともに(com)パン(panis)を食べること(ion)。「一緒にパンを食べる仲間」です。果たして「仮想空間」は、その仲間が集う場になりうるのでしょうか。
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